「学校における生命倫理教育ネットワーク」第22回勉強会報告

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ダリル メイサー(責任者、筑波大学 助教授)
〒305 つくば市 筑波大学 生物科学系
生命倫理に関する教育研究グループ
ファックス番号:0298-53-6614


<とき・ところ>
<とき・ところ>
2001年3月3日午後3時〜午後6時
麹町学園女子高等学校にて
内容:「情報倫理教育と生命倫理教育との連携」

埼玉県立大宮中央高校 井上兼生 先生 
 「IT革命」が進行しつつあるなか、学校教育においても本格的な情報教育がまもなく開始される。新指導要領では、情報教育の目標の一つとして「情報モラルの育成」が掲げられている。
 また、生命倫理の領域でも、生命科学技術と情報科学技術の融合が急速に進展しつつあり、個人遺伝情報保護やヒトゲノム情報の知的所有権をめぐる問題など、情報倫理との連携が必要な問題群が増大すると予想される。
 こうした状況を踏まえて、情報倫理教育と生命倫理教育との連携をどのように図っていくべきか、問題提起を行いたい。

<参加者>
社会科
井上兼生先生(埼玉県立大宮中央高校)
石塚健大先生(芝学園高校)
井出知綱先生(埼玉県立上尾橘高校)
大谷いづみ先生(東京都立国分寺高校)
小泉博明先生(麹町学園女子高校)
徳永由美子先生(大阪府立山本高校)
三浦俊二先生(埼玉県立草加西高校)
山下亨先生(東京都立東村山高校)

生物科
加藤美由紀先生(日本女子大附属高校)
白石直樹先生(東京都立足立新田高校)
しらたけ先生(石川県立小松高校)
鈴木○○先生(法政女子高校)
坪井重子先生(埼玉県立南稜高校)

家庭科
松尾○○先生(埼玉県立上尾橘高校)

伊藤○○さん(創価大学3年生)
メイサー・ダリル(筑波大学生物科学研究科)
近岡三喜子(筑波大学第2学群生物学類)

勉強会の流れ

オリエンテーション、アイスブレーキング
(15:00〜15:25)
 
まず、第22回の勉強会のテーマを説明し、埼玉県立大宮中央高校の井上兼生先生に発表していただくこと、その後に全体で先生の発表をもとに話し合いをすることなど大まかな流れをお知らせいたしまいた。そして、今回初めて参加する方もいらっしゃったので、全員簡単に自己紹介等を行いました。

井上兼生先生による報告
情報倫理教育と生命倫理教育の連携
(15:25〜16:45)

先生は、「情報倫理を公民科でどう取り上げるべきか」と題した平成12年度全倫研秋季大会第3分科会で使用された問題提起資料と、「情報倫理教育と生命倫理教育との連携」と題するレジュメを参加者全員に配り、それらをもとに報告を進めてくださいました。
まず、先生は下記に挙げる言葉をどれほどご存知かと全員に質問されました。
1.ハッカー
2.ワレズ
3.あらし
4.2ちゃんねる
5.パブリシティ権
6.グヌーテラ
皆さんは、いくつご存知でしょうか??これらはすべて最近になって生じた言葉であり、先生も情報倫理を勉強していく過程で学んだそうです。「IT(情報技術)革命」が進行する中、学校教育でも本格的な情報教育が始まろうとしています。平成15年度から適用される高等学校学習指導要領では、必須の「情報」が情報教育の中核教科として新設され、すべての教科・科目、特別活動、総合的な学習の時間内でのコンピュータや情報通信ネットワークの積極的活用を求めているそうです。
そして、情報教育の目標は現在3つ掲げられています。1.情報活用の実践力2.情報の科学的理解3.情報社会に参画する態度 です。3番目の「情報社会に参画する態度」に「情報モラル」「情報倫理」の必要性が迫られています。
ここでいう「情報モラル」は「発達段階を考慮して造語された初等中等版情報倫理」と考えて良いそうです。
新教科「情報」においては「情報モラル」の育成が重視され、その育成は教科「情報」とともに公民科が中心的な役割を果たすことが期待されています。
そこで先生は、情報教育の体系化のイメージをプリントの図で説明してくださりました。
インターネットの国内普及率増加そして、iモードの誕生で学生にとってもインターネットが身近になるとともに、プライバシーや著作権に関する問題、有害情報へのアクセス、電子メールを使ったトラブルなどの被害が学生にまで及んでいます。こうした中、情報倫理教育の必要性は高まる一方であるそうです。
先生は、情報倫理教育を2段階に区分すべきであると主張されました。第1段階は、ネチケット、情報の受信・発信に当たって被害者や加害者とならない為の安全・防犯教育、情報のプロシューマ−としての教育であり、第2段階は、情報化社会に適応するだけではなく、情報化社会の既成の枠組や価値観を根本的に問い直し、のぞましい方向を模索し、変革の実践に参加する態度を養う為の教育、であるそうです。
そして、公民科では第2段階の教育の比重を増していくべきだと主張されました。
考えられるテーマ例として、知的所有権の問題、遺伝情報の扱いをめぐる問題、サイバー資本主義(情報のマタイ効果・デジタル・デバイド)、匿名性・非対面性、日常モラルが低下した状態で、情報モラルの確立は可能か。等です。
これら諸問題のうち、遺伝情報の扱いを巡る問題を考えていく上で、情報倫理教育と生命倫理教育との連携が必至であります。
情報技術とバイオ技術が融合したバイオ・インフォメーション・エイジが到来しつつある現在、ゲノム研究はビジネスと政治の領域に移ろうとしています。個人の遺伝情報保護の問題も、生命倫理、情報倫理、ビジネスエシックスの分野にまたがる問題になる可能性が強まってくると指摘されました。
ヒトゲノム解析に伴うELSI(Ethical, Legal, and Social Issues)(倫理的・法的・社会的)問題が現実のものになってきているのです。
とくに自分の遺伝情報に関しては、「知る権利」「知らないでいる権利」「他人に知られないでいる権利」←積極的プライバシー権による保護が必要であると述べられました。
先生は、個人の遺伝情報の保護の問題を情報倫理の視点から課題学習で取り上げる場合には、積極的プライバシー権と関連付けながら、生徒に調べさせ、議論させることが有効であるとおっしゃいました。
また、ヒトゲノム情報と知的所有権の問題も考えなくてはなりません。「ヒトゲノム情報は人類共通の財産」であるはずですが、実際にはビジネスの分野を中心に遺伝子特許の激しい競争が繰り広げられています。
単なる塩基配列には特許と認めず、機能が解析された遺伝子には認める、というのが現時点での日米欧の特許当局による共通了解です。
現在「知・情報」は「公共財」としての特徴(排他的な私的所有物にはほんらいそぶわない)と位置付けられていますが「文化発展」のため、便宜的にものと類似したものとみなし、法的権利を設定できる状態にあります。つまり、このようなあいまいな設定は遺伝情報の産業化を導くと述べられていました。
デジタル情報化により、「所有」から「利用」へと流れが移行しているのです。
ヒトゲノム情報の知的所有権の問題を学習のテーマとする場合、知的所有権の一般についての理解を深めさせた上で、ヒトゲノム情報を特許の対象とすることの是非をめぐってディベートを実施する事が効果的であると述べられました。
最後に先生は「所有」概念の原理的再検討の必要性を主張されました。

途中で参加した人のための自己紹介
(16:45〜16:50)

途中で参加した人の為に簡単な自己紹介をしました。

休憩
(16:50〜16:55)

全体討論
17:00〜17:50

井上先生の報告をもとに全体で質問・意見を投げかけそれをもとに全体で討論しました。
初めに、SNPmapに関して議論されました。SNPmapと特許の関係から議論は始まりました。メイサー先生はDNAは公共のもの(public)であり、インターフェロン、ドラッグ(second utility)や医学研究の為の特別な1遺伝子(single gene)なら特許があると述べておりました。すべての遺伝子配列は公共のもの(common heritage)ですがビジネス、政治が絡むと事態は複雑になります。
また、三浦先生から生命は本来コピーをしながら再生するものであるが、自らコピーをしつつも、コピーを否定するとの指摘がありました。そこから、生命倫理上のコピーと一般的なコピーの違いは何か・・という議論が生じました。
大谷先生からは書物が大きな意味を持つ時代が終了するに連れ、知的所有権の時代も終わっていくのではないかという意見がでました。
情報教育についての議論では生徒に防犯教育を教えると必然的に犯罪を教えなくてはならなくなる難しさ等が挙げられました。

事務的連絡
(17:50〜18:00)

17回から22回の勉強会で発表された先生方へ、「日本における高校での生命倫理教育 Vol.2」のCDROMを作成するのでメイサー宛てにword, rtf, textfileで原稿を送っていただくように連絡しました。
そして次回第23回の勉強会で発表される先生を決めると同時に、日時・場所を決めました。
また、私事ですが、今回を持ちまして私(近岡)は大学を卒業し就職する為、次回以降の勉強会からの事務的作業は研究室の先輩である前川史さんが引き継ぐことを皆さんにつたえました。


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