ヒト・ゲノム研究と社会


第2回国際生命倫理・福井セミナ− (1992年3月20-21日)

藤木典生 メイサー ダリル(編)

ユウバイオス倫理研究会 1992

To English book

1992 Eubios Ethics Institute. All rights reserved. No part of this publication may be reproduced, stored in a retrieval system, or transmitted, in any form, or by any means, without prior permission of the Eubios Ethics Institute.(著作権)すべての権利は登録されています。ユウバイオス倫理研究会の許可無く,本出版物のいかなる部分の,電子,機械,コピー,録音その他のいかなる形や手段での複製,保管システムへの保存,伝送を禁じます。日本の著者による個々の寄稿の著作権は著者が保有します。グリソリア,イェズリー,ロバーツ,ウィクラー,メイサー,カン,サン,ラタナクル,バーマ,メランコン,グドゥセック,ドーセの論文と討論の日本語訳の著作権は,ユウバイオス倫理研究会が保有します。

キ−ワ−ド:生命倫理,バイオテクノロジ−,優生学,遺伝相談,遺伝子操作,遺伝スクリ−ニング,遺伝子治療,遺伝病,ヒト・ゲノム計画(科学的,倫理的,社会的,法的問題点),医学倫理,遺伝医学,(解析,治療,予防)生命の特許,遺伝病,遺伝相談の公的な考え方,生殖技術

お申し込みは Eubios Ethics Institute まで。 定価 3000 円
〒305 筑波学園郵便局私書箱125
Eubios Ethics Institute 
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目次



発行者まえがき vii
編集者の言葉 viii
セミナー概要 ix

(1) 開会の辞
司会 福井医科大学教授 藤木典生
歓迎の辞   
福井医科大学学長 鳥塚莞爾 1
福井県知事 栗田幸雄 2
福井市市長 大武幸夫  3
祝辞    WHO人類遺伝部長 V.Bulyzhenkov 4
(メッセ−ジ)ユネスコ事務局長 F.Mayor 5
WHO事務局長 中島宏 6
CIOMS事務局長 Z.Bankowski 7

(2) ヒト・ゲノム研究
司会 パスツゥ−ル研究所部長 G.Cohen 8
(メッセ−ジ) ユネスコ,ヒト・ゲノム計画総括委員会委員会委員長 S.Grisolia 9
ヒト・ゲノム解析計画(基調講演) 11
HUGO副会長 松原謙一

(3) 日本におけるヒト・ゲノム研究の現況
司会  日本分子生物学会会長 渡辺格 22
日本におけるヒト・ゲノム解析研究の現状:21番染色体を中心としてー 23
東京大学医科学研究所教授 榊佳之
免疫学におけるヒト・ゲノム研究 29
      京都大学医学部医化学教授 本庶佑
京都大学遺伝子実験施設教授 松田文彦
討論 35

(4) 遺伝医学における生命倫理の歴史
司会  日本生命倫理学会会長 星野 一正 41
米国における生命倫理:誰が決定するのか? 42
米国エネルギー省,ロスアラモス 国立研究所 M.B.Yesley
遺伝医学におけるバイオエシックスの歴史的背景 53
上智大学生命科学研究所所長 青木清
討論 57

(5) 遺伝医学における臨床的応用
司会 国立病院医療センタ−院長 高久史麿 60
ゲノム刷り込み現象と遺伝性疾患 62
長崎大学医学部教授 新川詔夫
家族性大腸ポリポーシス患者におけるAPC遺伝子異常と発症前診断 71
大阪大学医学部附属バイオメディカル教育研究センタ−助教授 西庄勇
新しい出生前診断法−着床前診断の臨床的意義 79
名古屋市立大学医学部助教授 鈴森薫
遺伝相談とインフォームド・コンセント 86
京都大学放射線生物研究センタ−長 武部啓
Y染色体のゲノム解析    88
東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻人類遺伝学講座教授 中込弥男
討論    91

(6) 遺伝医学における社会的問題   
司会 早稲田大学人間科学部教授 中村桂子 93
ヒト・ゲノムの解析と人権 94
東京大学文学部西洋史教授 遅塚忠躬
人権と遺伝医学 97
科学評論家 立花隆
遺伝医学の新しい時代への社会的対応      99
東京理科大学助教授 牧野賢治
ヒト・ゲノム研究−倫理的,法的,社会的観点との関連− 104
国立遺伝学研究所助教授 藤山秋佐夫
遺伝医学の社会的問題−その科学史的分析 107
三菱化成生命科学研究所室長 米本昌平
遺伝医学,社会的問題とゲノム計画 111
ニュ−キャッスル大学人類遺伝教授 D.F.Roberts
新優生学と障害者の権利の哲学的側面 117
ウィスコンシン大学医の倫理教授 D.Wikler
遺伝的差別の国際状況 124
カリフォルニア大学医学部副学部長 P.R.Billings
討論 128

(7) 国際意識調査
司会 IAHB会長 藤木 典生 129
日本人の遺伝子技術への態度:国内,国外比較 130
筑波大学生物科学系外国人教師 D.R.J.Macer
遺伝相談に関する倫理的検討     145
国立精神・神経センター精神保健研究所室長 白井 泰子他
遺伝外来における日米クライアントの倫理観の違い 152
輪島保健所所長 川島ひろ子
韓国における生命倫理の現実と展望 155
韓国・水原大学遺伝学教授 姜永善
中国における緊急の問題点 157
北京協和医院産科医学遺伝系教授 孫念怙
タイにおける遺伝と障害者についての意識調査 160
タイ・マヒド−ル大学アジア研究センター教授 P.Ratanakul
心身障害と遺伝についての一般のインドの人々の意識調査 166
全インド医科学研究所小児科教授 I.C.Verma 他
討論 168

(8) ヒト・ゲノム研究に伴う社会的・法律的・倫理的問題点(パネルディスカッション)
司会 日本人類遺伝学会前会長 松永英 171
情報を伝える立場から  173
NHKエデュケーショナル・ディレクター 大野善三
特に産婦人科医としての立場から   178
弘前大学名誉教授 品川信良
遺伝相談−母・女性の立場から 181
東京女子医大小児科助教授 大沢真木子  
價値觀と科學・技術 187
お茶の水女子大学哲学科教授 吉田夏彦
DNA特許について 192
新潟大学法学部教授 名和小太郎
討論 195

(9) 科学者の責務
司会 国際高等研究所所長 岡本道雄 204
ヒト・ゲノムに関する知識修得と技術開発における科学者の責務 206
カナダMURS副会長 M.J.Melancon
科学的責務 212
米国国立保健研究所国立神経病研究所所長 C.D.Gajdusek
お祝いのメッセ−ジ       218
フランスMURS会長 J.Dausset
科学振興にあたっての倫理観   219
基礎化学研究所所長 福井 謙一
討論 221

(10) 閉会の辞
海外を代表して ウィスコンシン大学医の倫理教授 D.Wikler 223
閉会に際して  科学技術会議議員 森亘 (メッセ−ジ) 226
閉会の辞 京都大学放射線生物研究センタ−長 武部啓 228
公開講演 科学評論家 立花隆 230

名簿 232
索引 234
第2回国際生命倫理福井セミナ−1992
−ヒト・ゲノム研究に伴なう倫理的法的社会的問題点−
福井フェニックスプラザ 1992年3月20-21日

(主催)  第2回国際生命倫理福井セミナ−組織委員会
(共催)  文部省ヒト・ゲノム研究班,倫理部会
    福井医科大学
    国際人類生物学会
(後援) 国連教育科学文化機構,世界保健機構,国際医科学機構評議会,
文部省ヒト・ゲノム研究班,福井県,福井国際交流協会,福井市,
福井コンベンションビュ−ロ−
(事務局) 福井医科大学第二内科 〒910-11 福井県吉田郡松岡町下合月23
    TEL:0776-61-3111 (内線2300) FAX:0776-67-8110

(名誉委員) 
F. Mayor  (ユネスコ事務局長)
H. Nakajima  (WHO事務局長)
Z. Bankowski  (CIOMS事務局長)
J.B. Wyngaarden(米国科学アカデミ−渉外事務局長)
V.A. McKusick (元HUGO会長)
J. Dausset  (フランス科学的責務国際協会会長)
C.D. Gajdusek (米国国立保健研究所部長)
渡辺格  (慶應義塾大学医学部名誉教授)
岡本道雄  (国際高等研究所所長)
福井謙一  (基礎化学研究所所長)
森 亘   (日本科学技術会議員)

(組織委員)鳥塚莞爾  (福井医科大学学長)
松原謙一  (文部省ヒト・ゲノム研究班班長,HUGO副会長)
藤木典生  (ELSI部会長,IAHB会長,福井医科大学教授)
V. Bulyzhenkov (WHO人類遺伝部長)
星野一正  (日本生命倫理学会会長)
高久史麿  (国立病院医療センタ−長)
中村桂子  (早稲大学人間科学部教授)
松永英  (国立遺伝学研究所名誉教授)
武部啓  (京都大学放射線生物研究センタ−長)

(学内委員)宮保進 (病院長)      岡 宏 (副学長)
      須藤正克(小児科教授)    富永敏朗(産婦人科教授)
      武藤明 (生化学教授)    山村博平(生化学教授)
      藤枝宏壽(英語教授)     高宗進 (事務局長)
(事 務 局) 岸紘一郎(副委員長,法医学教授)山本達 (副委員長,倫理学教授)
郡大裕 (理事,内科助教授)  平山幹生(事務局長,内科講師)

発行者まえがき


 本書は第2回福井国際生命倫理セミナーで発表された学際的論文の集録です。「ヒト・ゲノム研究と社会」の日本語版は,1992年7月に発刊された英語版に新たな図表と,セミナー終了後立花隆氏によって行なわれた一般講演会の抄録を加えた増補版です。生物学者はもちろんのこと,一般の読者にも多くの論文が理解できるよう編纂されてています。
 ヒト・ゲノム研究はヒト遺伝学の延長であり,遺伝医学それ自体は新しいものではありません。しかし「ヒト・ゲノム研究」という言葉は,遺伝学のゴールが,遺伝子の研究から全ゲノム(遺伝子すべてとその他のDNA配列)の研究へと著しく拡大していることを反映しています。今回の学会が開催された1992年3月からでさえ,新技術の開発とゲノム解析へのロボットの大規模な応用によって,ゲノム地図と配列の完成目標日は操り上がっています。10万のヒト遺伝子のうち1〜2万は既に,そして,3〜5年以内には残りのすべてもシークエンスされるでしょう。しかし,遺伝子の働きが明らかになるまでにはもっと時間がかかるでしょう。この遺伝子情報の爆発は,社会,そして地球のすべての生命を変えるでしょう。
 本書は,研究の社会的影響の考察に対して,研究者自らが時間とお金の面で援助を行なう形に枠組転換(パラダイムシフト)が始まっていることを表している点で意義深いものです。この枠組転換は既にヨーロッパと北米で進行中です。本書の中で,科学的責務国際協会 (MURS)の日本支部が誕生し(第9章),また本書全体を通じて,ヒト・ゲノム研究の倫理的,法的,社会的影響 (ELSI)の問題点が科学者から何回か取り上げられています。本セミナーは活動グループの援助を目的とした文部省ヒト・ゲノム計画予算の1%を占める基金から資金を受けました。1992年米国では,国立衛生研究所のヒト・ゲノム計画予算の5.2%(520万ドル),また,ヒト・ゲノム計画からの180万ドルがELSI問題に当てられ,他の政府機関からの援助を含めると,その総額は日本がELSI問題に費やす金額の約100倍(1992年では文部省から500万円,厚生省から500万円,他)に当たります。欧州共同体も計画の多くを援助しており,カナダのゲノム計画はその資金の少なくとも7.5%をこの問題に割いています。私たちは日本のELSI研究への資金が増えることを期待しています。ELSI予算は,分子生物学者と遺伝子学者が自らの研究が及ぼす影響をどれほど真剣に考えているかを示す尺度の一つになるからです。もう一つの尺度としては,これらの研究者の学際的学会への参加意欲の増加,そして一般市民との相互作用の深度が挙げられます。科学者が難解な専門語で話していたのでは一般市民は理解できません。福井セミナーはこのような尺度という点で重要でしたが,科学者の思考様式の変化や,その視野の拡大の意欲の程度は将来にならなければわからないでしょう。ELSI問題に真剣に取り組むには,時間と資源の両方を求められます。日本の一般市民がどのくらいこの討論に参加する意志があるかを私たちが知るのもまだ先のことでしょう。既にこの討論への招待状は出されているのです。
 本書の発行はユウバイオス倫理研究会の喜びとするところです。この本が,伝統的に閉ざされたままの日本の学術分野間の理解を広める一助となることを望んでいます。おそらく日本は西洋諸国よりも開かれていないでしょう。私たちは日本におけるELSI問題の関心の高まりを期待しています。これらの問題は全く新しいものではありませんが,遺伝情報が急増する新時代にあってますます重要となる問題でしょう。
   メイサ− ダリル   ユウバイオス倫理研究会 編集者の言葉
 
 本書は進行中の生命倫理論議への一助となることを願って書かれました。生命倫理は人間が生命に関与することから生じる倫理的問題に関する研究として考察すべきものです。遺伝技術はあらゆる生物に対して適用可能ですが,これがもっとも複雑な問題を呈するのは,例えば遺伝子スクリーニングや遺伝子治療など,これらの技術が人間に用いられる時です。
 本書はこれらの問題に関心を持つすべての人々に向けられたものですが,日本の人達,とりわけ政策決定に携わる人,そして科学者へ,彼らの研究が及ぼす影響についての公開討論へ扉を開いて欲しいという願いを込めて贈るメッセージです。
 多くの国々と同じように,日本ではまだまだ生命倫理について論ずる機会は少なく,それ故にこそ,会合や啓蒙教育がもたれることが望まれ,科学者の間でその意見を交換する努力が必要といえましょう。専門家でないからコメントをつけることができないとの意見もありましたが,すべての人々が関係しているわけですから,多角的に生命倫理学の討議を進めるべきです。ヒトの自律性,公正を尊重し,善行を施し,害さないという原則の中でこうした問題点を討議しなければなりません。私たち全てがこうしたことを考え,他人の意見に心を開いて耳を傾けることが必要でしょう。遺伝情報を利用することで健康や生活そのものの理想像が変わるかもしれません。だからこそ,こうした討議をすることが科学者のみならずすべての人の責務でもありましょう。健康は遺伝子によって影響される身体的心理的健康とともに,生活の精神的な側面も含んでいます。遺伝的決定論が人であることの正しい意味,そして健康の真の意味を曇らさないよう,すべての人々が発展しつつある遺伝技術を等しく享受できるよう努めなければなりません。
 本書は文部省ヒト・ゲノム計画予算から一部助成を受け,セミナーの参加者と各医科大学に配付されます。 演者の先生方,多くの参加者の皆さん,組織委員会,実行委員会,関係機関の方々,平山幹生講師,中川好美さん,そしてこのセミナ−の計画実行にご協力頂いたすべての方々に改めてお礼申し上げます。各機関の関係者のお名前は別項に挙げさせて頂きました。
 多くの人に読んで頂けるよう,会議録は英語と日本語で刊行されました。英語で提出された論文の日本語訳は稲垣かずみさんが担当してくださいました。いろいろご無理をお願いしましたが,快く引き受けてくださいました。厚くお礼申し上げます。翻訳では益子真由美先生にもご助言を頂きました。また,本書の刊行に際しては,安原勇さんにお力添えを頂きました。心よりお礼申し上げます。そして本書の校正に献身的な努力をしてくれたN.メイサーさんに感謝を表したいと思います。
 この会議録が今後のヒト・ゲノム計画のあり方を討議するのに役立つことを願って筆を置きます。

1992年10月
                     藤木典生  メイサ− ダリル
著者の意向により一部原文のまま掲載したものもあります。 セミナ−概要

 フランス政府生命科学のバーナード倫理諮問委員会委員長を迎えて,1987年に福井で開催された第1回国際生命倫理福井セミナ−1987で,当時あまり馴染みのなかった生命倫理の諸問題が討議され,5年の月日が流れました。この間,生命科学,ことに遺伝医学の知識と技術は目覚ましく進歩しました。さまざまな遺伝病の診断と発症要因についての報告が相次ぎ,遺伝子マッピング,DNA配列順序の決定を初めとするヒト・ゲノム研究は,米国,ヨ−ロッパ,日本でしのぎを削って行われてきました。膵嚢胞性線維症,筋ジストロフィ−症,神経線維腫,跪弱X染色体や癌の病因解明,そして,数年のうちにすべてのヒト遺伝子の配列も決定され,これらはやがて治療に役立つことになりましょう。
 今回,文部省ヒト・ゲノム研究班,ユネスコ,WHO,CIOMS,IAHB及び福井医科大学の支援をうけて,9か国(アメリカ,イギリス,カナダ,韓国,タイ,中国,フランス,ニュージーランド,ロシア)から計12名の第1線に立つ研究者,そして,医学,生物学,倫理学,法学,哲学,社会学など日本の各分野で活躍する31名の研究者が中心となり,一般の人々も含めた200名が参加して第2回国際生命倫理福井セミナ−1992が開催されました(1992年3月20〜21日,福井フェニックスプラザ)。
 ヒト・ゲノム研究班の倫理部会により組織された本セミナーでは,四半世紀の急速なバイオテクノロジ−の進歩に伴い生じている,これまで想像だにされなかった新しい遺伝医学の問題点が討議されました。我々の社会の中で遺伝医学をどのように受けとめるべきかを提起し,これまでの伝統的価値観が果たして妥当か,より広い共通理念の上にたって考え直すための多角的な討論が行われました。
 セミナーは藤木典生(福井医科大学)の司会により始められました。鳥塚莞爾(福井医科大学)と栗田幸雄福井県知事の歓迎の辞に続き,F.マイヨール ユネスコ事務局長,中島WHO事務局長,Z. バンコースキCIOMS事務局長からのメッセ−ジ,V. ブリゼンコフ WHO人類遺伝部長の挨拶がありました。
 当初予定されたS.グリソリア(バレンシア細胞学研究所)が欠席されたため,G.コーエン(パスツゥ−ル研究所)の司会で,松原謙一(大阪大学)によりヒト・ゲノム研究概要の基調講演があり真下。
 日本におけるヒト・ゲノム研究の現況は,渡辺格の司会で,榊佳之(東京大学)松田文彦(京都大学)(本庄佑京都大学生化学教授が欠席されたため)により解説されました。
 M. イェズリー(米国エネルギー省)と青木清(上智大学)による遺伝医学における生命倫理学研究の歴史と現況は,星野一正(京都女子大学)の司会のもとに進められました。
 次いで,高久史麿(国立病院医療センタ−)の司会で,遺伝医学における臨床的応用が,新川詔夫(長崎大学),西庄勇(大阪大学),鈴森薫(名古屋市立大学),武部啓(京都大学),中込彌男(東京大学)により,それぞれ,ゲノム・インプリント,発症前診断,出生前・受精前診断,遺伝相談,ヒトY染色体マッピングなど,最近の技術を例示しながら報告され,第一日目を終了しました。レセプションパ−ティでは,大武幸夫福井市長の挨拶を頂き,ノ−ベル受賞者である福井謙一(基礎化学研究所)の「科学振興にあたっての倫理観」と題する講演を伺うことができました。
 第2日目は中村桂子(早稲田大学)の司会で,遺伝医学の社会的問題点について,遅塚忠躬(東京大学),立花隆,牧野賢治(東京理科大学),藤山秋佐夫(国立遺伝学研究所),米本昌平(三菱化成生命科学研究所),D.F.ロバーツ(ニュ−キャッスル大学),D.ウィクラー(ウィスコンシン大学),P.ビリングス(カリフォルニア大学)により討議されました。本書に掲載された論文からもわかるように遺伝的偏見や人権の問題も含めた,大変興味深く,密度の高いセッションでしたが,時間不足のため充分な討議ができず,引き続いて討議されることが望まれます。
 次に,国際意識調査に関するセッションが,藤木典生の司会で行なわれました。D.R.J.メイサー(筑波大学)により日本人の遺伝子技術に対する意識調査とその国際比較が解説され,白井泰子(国立精神・神経センタ−),川島ひろ子(輪島保健所)がそれぞれ遺伝相談における倫理的問題点について,また,N.H. サン(北京協立病院),Y.S. カン(スオン大学)が,それぞれ中国と韓国の現況について報告しまた。P. ラタナクル(マヒド−ル大学)はWHO調査研究の一環としてタイにおける調査結果を報告,また,I.C. バーマ(全インド医科学研究所)は欠席されましたが,インドでの調査結果は本書に集録してあります。これらの結果は藤木典生により日本のデ−タ−と比較検討が行われ,いづれの国においても誤解と偏見の解消のための啓蒙教育の必要という点で見解の一致をみました。引き続いて,ヒト・ゲノム分析の倫理的法的社会的問題点について,松永英(国立遺伝学研究所)の司会でパネルディスカッションが行われました。大野善三(NHKエデュケーショナル)は情報提供者として,品川信良(弘前大学)は産婦人科医として,大沢真木子(東京女子医科大学)は母そして女性として,吉田夏彦(お茶の水女子大学)は哲学者として,そして名和小太郎(新潟大学)は法学者として,それぞれの立場から話題提供があり,討論が有効に進められ,今後さらなる討議のきっかけとなりました。
 最終のセッションは,岡本道雄(国際高等研究所)の司会で,M. メランコン(カナダ科学的責務国際協会)およびノ−ベル賞受賞のC.D. グドゥセック(米国国立保健研究所)が科学者の責務について考察し,J. ドーセ フランス科学的責務国際協会会長からのメッセージも紹介されました。ヒト・ゲノム研究の成果とその応用及び遺伝と環境の相互作用について聴衆に稗益する処が大でした。
 森亘(科学技術会議)からのメッセ−ジ,D.ウィクラーのまとめ,武部啓の閉会の辞で,2日間のセミナ−を無事終えることができました。また終了後,立花隆により行なわれた「ヒト・ゲノム計画がもつ意味」と題した県民におくる公開講演会には約500名の参加があり,こうした国際セミナ−を一般の人々の啓蒙教育に資することのできたことは望外の喜びでした。
  本セミナーは, 自然科学者にその社会的問題点を,また社会科学者に科学技術の進歩を知らしめるべく,2つの異なった分野である科学と倫理の融合とふれ合いの場を自然及び社会科学者に提供する目的で企画されました。討議の時間的余裕が少なかったため充分な討議ができなかったこと,自然科学者の2日目の討議への参加が少なかったことが特に残念でしたたが,英和それぞれの会議録には少し詳しい論文を集録することができました。人間性尊厳をふまえて科学や技術の進展に努め,この対話がこれで終わることなく,日本においてさらに進んだ,そしてまた,国際的な討議を行うきっかけとなるよう希望いたします。WHOの理念であるHealth for Allを達成するよう努めることが私たちに課せられた責務ではないでしょうか。
                藤木典生, メイサ− ダリル , 鳥塚莞爾 
Please send comments to Email < darryl@eubios.info >.


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