ハプロタイプマッププロジェクト(Haplotype Map Project: HapMap)
ご協力のお願い
この説明文書を十分な時間をかけて読み、ご不明な点については質問してください。そして、このプロジェクトについて、家族や友人と話し合ってください。
このプロジェクトについて
この度、国際共同研究チームは、世界の様々な地域にルーツを持つ人々の遺伝子DNAの違いを調べる研究プロジェクトを計画し、それを推進することになりました。この共同研究には、米国国立衛生研究所(The National Institutes of Health: NIH)および理化学研究所遺伝子多型研究センター・東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターをはじめ、世界のいくつかの研究機関が参加しています。そこで、世界の3つの地域から、それぞれ約140人の方に、任意でこの研究に参加して頂きたいたいと考えています。この研究には血液サンプルが必要ですので、東京大学ヒトゲノムセンターでは、血液サンプルのご提供をお願いしています。研究に参加していただく方の個人のお名前は勿論、その他のいかなる医学的情報も必要としません。研究者たちには、個々のサンプルが世界のどの地域のものかという情報だけが与えられます。
このプロジェクトの目的
このプロジェクトは、遺伝子がどのように健康と病気に関わっているのか、といった研究を進めるための基礎となる情報をえることを目的とします。遺伝子とは、人間の基本的な「設計図」のようなものです。遺伝子は、DNAから作られます。ヒトのDNAは、各個人の間で約99.9%まで同一です。しかし、一卵性双生児の場合を除いては、全く同一なDNAを持った人間は誰ひとりいません。個人間におけるDNAの違いは、遺伝暗号のバリエーションと呼ばれます。このようなバリエーションにより、目の色や血液型などといった個人間の違いを説明することができます。また、なぜある人たちは癌、糖尿病、喘息、うつ病などの病気に罹り、他の人たちは罹らないのか、ある程度遺伝子レベルで説明することもできます。こうした病気には、遺伝子だけでなく、食生活、運動の習慣、喫煙、環境中の汚染物質、その他様々な因子も関わっていることが知られており、このことが、こうした病気に関与している遺伝子の解明を難しいものにしています。
遺伝子は、それぞれの地域に住む人で少しずつ異なり(遺伝暗号のバリエーション)、その人たちに特徴的であると考えられています。しかし、ある遺伝子DNAについて、この遺伝暗号のバリエーションがどのくらいの頻度に認められるか、という点については、まだ十分にはわかっていません。例えば、世界中どの地域の人々にも、ABOだけでなくさまざまな血液型が検出されていますが、ある血液型の出現する頻度は、地域によって異なっている、ということを説明すれば、ご理解いただけると思います。このプロジェクトでは、人種や地域の異なるたくさんのグループに属する人々から血液サンプルを提供していただくことによって、多くの遺伝暗号のバリエーションを比較することができます。このような成果は、他のサンプルを用いた他の研究と比較検討すること、ある病気に関わる遺伝子を見出すことに役立てられます。
このような科学的な研究目的を達成するために、日本では、純粋に日本人の方を研究対象といたします。また自分の意思で参加していただくことに配慮して、20歳以上の方を対象にします。
提供していただく血液サンプルについて
このDNA上のどの部分に遺伝暗号のバリエーションがどのような頻度で存在しているのかを調べていく研究には、3年以上かかることが予想されます。それぞれの血液サンプルについて、発見された遺伝暗号のバリエーションのリストが作成されます。また、ご協力いただく方々のDNAについて、遺伝暗号のバリエーションの組合せ型を見出すための研究が行われます。この遺伝暗号のバリエーションの組合せ型のことを、「ハプロタイプ」と呼びます。
すべての情報は、インターネット上の科学的なデータベースに収められます。ここでいう情報とは、それぞれのサンプルについて分析された何百、何千(何百万にもなるかも知れません)という遺伝暗号のバリエーションの情報、そのサンプルの提供者について、どの民族的地域的グループに属しているか、および性別を含みます。データベースには、サンプルを提供していただく方々の個人情報、また個人を特定できるようないかなる情報は入力されません、また個人の医学的情報も入力されません。
データベースに収められたこの遺伝暗号のバリエーションの情報により、遺伝暗号のバリエーションの組合せ型をまとめた遺伝学的地図が作成されます。これを、ハプロタイプマップ、HapMapと言います。HapMapは、インターネット上に置かれます。HapMapには、医学的情報は含まれていませんが、将来、様々な病気に関わる遺伝子を探索するような研究に役立てられます。HapMapは、ハプロタイプ(遺伝暗号のバリエーションの組合せ型)がDNA上のどの位置にあるかを示すものです。一方、糖尿病などの病気に罹っている人たちと罹っていない人たちについて、ハプロタイプが研究されます。ふたつのグループの間でハプロタイプが異なっているDNAの部位は、その病気に影響している遺伝子が存在する部位を探す手がかりとなります。研究者たちは、そのような遺伝子を発見し、それらの機能について研究することができます。具体的には、例えば糖尿病にかかっている人から提供された血液サンプルについて、同じ研究が行われ、今回の研究結果と比較研究が行われ、糖尿病に関係した遺伝子が同定されることになります。こうした研究の成果により、その病気の予防、診断、治療のより良い方法が発見される可能性があります。また、より多くの人に対してより効果的な薬の開発に役立てられる可能性があります。頭がはげるといったような特徴や依存症といったような習性、そして長寿などに関する遺伝子の探索に役立てられるかもしれません。
将来は、提供していただいたサンプルを用いて、遺伝子の産物であるRNAやタンパク質と呼ばれるものの量および質についても、違いが認められないか、検証します。そして、それらすべての解析結果は、データベースに収められます。提供していただくサンプル、データベース、およびHapMapは、他の研究にも役立てられます。例えばDNAに関連する生物学、たとえばどのようにして新たな遺伝暗号のバリエーションが起こるか、人間の集団の遺伝学的歴史、そして世界の異なる地域にルーツを持つ人々が互いにどのように関連し合ってきたか、といったようなことを解明するために役立てられます。
血液サンプルを提供していただく場合
このプロジェクトについてご理解いただくために、説明会を行います。説明会に参加いただいた後、このプロジェクトにあなたの血液を提供していただける場合には、この説明文書の終わりにあります同意書に署名する意志があることをおっしゃってください。その後、実際に東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターにお越しいただき、研究計画の説明を受けていただいた後、同意書に署名いただき、血液サンプルを提供していただくことになります.その旨をお知らせする葉書をお送りさせていただきます。説明会の中で、あなたが述べられたご意見や、あなたの個人的な情報が、提供していただくサンプルに結び付けられたり、データベースに入れられたりすることは、決してありません。血液を提供していただく場合、およそ10mlを腕の静脈から採血させていただきます。
あなたの血液サンプルは、信州大学へ送られ、血液細胞のセルライン化が行われます。これにより、あなたのDNAを十分な量得ることができるようになりますし、あなたの細胞を長期間培養し続けることができるようになります。全体でおよそ140人の方から提供していただく血液サンプルのうち、約100人分のセルラインが信州大学に保存されます。これと同一のセルラインが、米国NIHが監督する組織であるInternational Human Genetic Cell Repository at the Coriell Institute for Medical Research(Coriell)へ輸送されます。
信州大学が保管するセルラインは、日本人のHapMap解析のほかにも、日本の研究者たちが信州大学の機関審査委員会 (Institutional Review Boards: IRBs)で承認された研究を行うのに役立てられます。
Coriellが保管するセルラインは、HapMap作成のために、また世界中の研究者たちがこの説明文書に書かれたような将来の様々な遺伝学的研究を行うのに役立てられます。Coriellが提供するセルラインを用いて行われる研究は、すべてCoriellのIRBの承認を受ける必要があります。また、研究者たちは、すべての合衆国の法律と国際法、および研究に適用されるガイドラインに従わなければいけません。
IRBとは、この研究にご協力いただく皆様の権利が保護されることを保障するために、このプロジェクトについても審査し、承認した委員会のような組織です。また、研究に参加する国ごとに顧問委員会(Advisory Group)が設置されます。この委員会は、前述の説明会に参加していただいた方々を含め、いろいろな社会的背景をもつおよそ10人の人たちで構成されます。委員会には、この国際プロジェクトの進捗状況が知らされます。また、日本から提供されて、米国で保管されるサンプルを用いて将来行われる研究が、この説明文書で述べられたようなものであることを審議するための活動をCoriellと共に行います。
このプロジェクトにおける費用および報酬
このプロジェクトにご協力いただくにあたって、費用のご負担は一切おかけいたしません。研究に参加していただける場合、血液サンプルを提供していただくための時間や交通費として、お一人に5000円をお支払いいたします。
Coriellでは、血液サンプルからの派生物、およびセルラインを売買することは一切認めていません。しかしながら、遺伝学的研究により得られる情報は、企業が病気の診断や治療のための製品を開発する際に役立つことがあります。このような場合でも、あなたのセルラインの遺伝情報の貢献度は、非常に限られた範囲においてということになります。更に、あなたのセルラインからは、あなたのお名前はわかりませんし、研究者たちにもCoriellの誰にとっても、あなたにご提供いただくサンプルが実際に研究に使用されたかどうかさえ、知ることは不可能です。このような理由から、このプロジェクトにご協力いただくにあたって、上述したもの以外にあなたが報酬を受けることは一切ありません。
プライバシーの保護について
あなたのプライバシーを保護するために、いくつかの方法をとっています。同意書にはあなたの署名をいただきますが、この同意書は、封印した封筒に入れて、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの倫理委員会の事務局にて保管されます。誰もこれを見ることはできません。封印した記録文書として倫理委員会が保管します。ご提供いただくサンプルとあなたのお名前を一緒に保管することはありません。また、あなたを特定することができるようなコード番号をご提供いただくサンプルにつけることもありません。ですから、信州大学およびCoriellの者もあなたのサンプルを解析する者も、そのサンプルがあなたのものであることを知ることは不可能です。
また、セルラインを作る場合、すべて成功するとは限らないので、実際に使用されるより以上の数の血液サンプルが収集されます。このことにより、あなたの血液サンプルが研究に使用されたかどうか、あるいはデータベースにある情報があなたの血液サンプルに由来するものかどうか、あなた自身にも、他の誰にも知ることはできないということになります。(使用しないサンプルは、規則に従って廃棄されます。)
サンプルを提供することによる利益
サンプルを提供することにより、あなたが直接利益を受けることはないでしょう。この研究により、有益な結果が得られるのには、長い時間がかかるからです。健康と病気の解明を目指して、何年間もサンプルの解析が行われます。その結果は、いつの日か、世界中の人々の健康に利益をもたらすものになるでしょう。
サンプルを提供することによる危険性
定期健診の際に体験されていることと思いますが、採血での危険性は、非常にわずかです。短い痛みがあり、ほんの少し傷がつきます。軽いめまいがしたり、失神したりすることがあるかもしれません。また、(非常にまれなケースですが)注射針が挿入された部位で感染が起こるかもしれません。
日本人のサンプルとして、あるセルラインが使用されたかどうか、誰にも、提供者本人にさえもわからないようにするために、またセルラインにできる成功率を勘案して、サンプルは140人の方から収集し、そのうち約100サンプルをセルバンクで保管します。この方法により、誰にも、あなた自身や我々にさえも、あなたのサンプルがHapMap研究に使用されたかどうか、あるいはデータベースに収められている遺伝情報があなたのサンプルに由来するものかどうか、判断することはできなくなります。(使用しないサンプルは、廃棄されます。)
実際に、あなたのサンプルが研究に使用され、その結果あなたの遺伝情報が、同様に研究に使用された他の人たちの遺伝情報と一緒にデータベースに保存される確率は、4分の3ということになります。個人のお名前はデータベースには入れられませんので、どの遺伝情報があなたのものなのか、特定することは決してできません。データベースのある遺伝情報があなたのものであると特定されることがあるとすれば、誰かがあなたの遺伝情報がデータベースにあるかもしれないと考え、あなたから新たにサンプルを採取し、その新しいサンプルを解析したデータをデータベースの遺伝情報と比較した場合です。あるいは、誰かがHapMapのデータベースにある遺伝情報と別のデータベースにあるあなたのものだとわかっている遺伝情報とを比較し、あなた個人を特定する場合です。このようなことが起こる危険性は、絶対無いとはいえませんが、あなたに関する医学的情報を本当に知ろうとするならば、あなたからサンプルを採取し、直接そのサンプルを解析する方がずっと容易なのです。つまり、このデータベースが本来の目的以外に過って使用され、あなたに危害が及ぶことは皆無に近いと考えます。
研究の結果について、すべてを予測できるわけではありません。従って、その可能性は非常に低いものではありますが、今予測することができない新たな問題が起きるという可能性はあります。
あなたのサンプルが、あなたのクローンを作るために使われることはありません。
日本人にとって不利益をもたらす可能性
−外国で日本人サンプルを使用した研究に関する問題点
サンプルを提供していただく方々の地理的なルーツについての情報は、サンプル、データベース、およびHapMapに保存されます。研究を進める中で、将来、ある遺伝暗号のバリエーションが、日本人で他の地域の人たちよりも頻度が高く認められるということが明らかになるかもしれません。そして、その遺伝暗号のバリエーションが、ある病気に罹っている人たちでより共通して認められるということが明らかになるかもしれません。このような発見が公表されると、非論理的なことですが、日本人を劣っていると考える人が出てこないとも限りません。
HapMapやHapMapを利用した将来の研究で明らかになる情報を、偏見や他の悪質な理由から、異なるグループ間における違いを誇張するために恣意的に使おうとする人がいるかもしれません。また他の人は、遺伝情報によるグループ間の違いを過小に評価して、すべての人々の遺伝子はほとんど同じなのだから、遺伝学的に異なるグループの人たちへの特別な関心に対して敬意を払う必要はないと言うかもしれません。生物医学研究は、基本的に偏見につながる根拠を検索する類のものではありません。しかし、差別は確かに存在します。
保管サンプルについて、データベースについて、HapMapについて、また研究者たちがHapMapに関して書くいかなる論文についても、特定の民族的、地理的な情報に関する言及については、可能な限り注意深く表現するように努力することを望んでいます。
サンプルを提供した後の同意撤回について
サンプルを提供してくださるかどうかは、完全にあなたの自由意思によるものです。プロジェクトにご協力いただけなくても、あなたが不利益を被ることはありません。しかしながら、サンプルを提供していただいた後で、それを取り戻すことはできませんし、データベースから情報を取り出すこともできません。どれがあなたのサンプルかを知ることは不可能だからです。
このプロジェクトの進行状況について
―アメリカ、その他外国で進められる研究について
サンプルには、あなたのお名前は添付されないので、あなたのサンプルの解析結果をあなたに直接お知らせすることはできません。しかし、HapMapと日本から提供されるサンプルがどのように研究に役立てられているか、そして健康と病気に関してどのようなことが解明されているのかということについて、日本の顧問委員会に随時、情報は伝えられます。
署名していただく同意文書は、この文書には含んでいません。
「Haplotype Mapプロジェクトご協力のお願い」
Haplotype Mapping Project in Japan (in Japanese)
Haplotype Mapping Project -Science (in Japanese)
Eubios Ethics Institute
http://eubios.info/index.html
Please send comments to
Email <
Hapmap@hotmail.com >.