「学校における生命倫理教育ネットワーク」第14回勉強会報告

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ダリル メイサー(責任者、筑波大学 助教授)
〒305 つくば市 筑波大学 生物科学系
生命倫理に関する教育研究グループ
ファックス番号:0298-53-6614


「遺伝子治療」「遺伝子を扱った授業の実践報告」をテーマに‐

<とき・ところ>
1999年5月1日午後3時~午後6時
東京都立日本橋高校にて

<参加者>
社会科
井上兼生先生(埼玉県立大宮中央高等学校)
小泉博明先生(東京都麹町学園女子高校)
田中裕己先生(名古屋大学教育学部付属高校)
山下亨先生(東京都立東村山高校)
三浦俊二先生(埼玉県立草加高校)
大谷いずみ先生(上越教育大学)
生物科
白石直樹先生(東京都立足立新田高校)
細田真奈美先生(埼玉県立浦和第一女子高校)
佐藤潔先生(千葉県立長狭高校)

浅野茂隆先生(東京大学医科学研究所 付属病院長)
小林俊哉さん(未来工学研究所 主任研究員)
メイサー、ダリル(筑波大学生物科学研究科)

勉強会のながれ
オリエンテーション、アイスブレーキング
(15:00~15:15)
 まず、第14回の勉強会のテーマを説明し、東京大学医科学研究所 付属病院長の浅野茂隆先生に発表していただくこと、埼玉県立大宮中央高校の井上兼生先生に発表していただくことなど大まかな流れをお知らせしました。

東京大学医科学研究所 付属病院長
浅野茂隆先生による報告
―遺伝子治療についてー
(15:15~17:15)
浅野先生は、現在における遺伝子治療と21世紀にむけて革新的な進歩を遂げる遺伝子治療の進化を述べてくださいました。また、遺伝子治療を医学的な技術の面と生命倫理学的の面の双方から説明してくださりました。
これからの治療法は、既存の治療法に比べて、低コストでかつ質の高いものであることが求められ、この点を満足させるものは特定の分子だけを狙う分子標的療法なのだそうです。この中でも特に興味を持たれるようになっているものの1つが、遺伝子そのものを医薬品として用いる遺伝子治療法なのだそうです。
現地点での遺伝子治療の方法論は満足行くものではなく、その発展に向けて解決していかなければならない解決も多いそうです。課題としては主に、治療遺伝子として何を用いれば良いか、どの細胞に導入するか、遺伝子を運ぶベクターはなにを用いるのかといった具体的なものを説明してくださいました。そして、新たな課題としては治療に対する固体反応における個人差であるということだそうです。個人遺伝子療法に基づいた患者個人に有った治療遺伝子の選択や治療の時期の決定などが迫ることになるということでした。
また、遺伝子治療臨床研究はTranslational Research ガラス張りのシステムで行われるべきものだそうです。遺伝子治療のような革新的治療法を開発するには、実験動物を用いた前臨床試験で既存の治療法にすぐると考えられる安全性と有効性を示す必要があるそうです。その上で、少数の患者において問題が発生しないか否か詳細に観察することになるそうです。患者の協力を得て設定される臨床研究は、Translational Researchと呼ばれています。これにおいては、その内容に関しての信頼性と透明性の確保や患者が抱くであろう不安を取り除くための努力や補償の確保が重要となるそうです。そのためには、患者のプライバシーの保護が許容範囲内でデータが公開されること、システムの整った公的な医学研究機関で行われることなどの必要性と同時に、体制、施設、ガイドラインの開発も重要であるとおっしゃっておりました。
この点において日本は遺伝子治療を開発することを目的とした臨床研究は欧米の先進諸国に比べて遅れをとってしまったようです。今後この分野において欧米と対等な関係を持ち、アジアにおいて協調関係を創造していくための中心的役割を果たせねばない我が国にとって、ガラス張りシステムの構築は必須だそうです。
また、これらの研究開発の過程を推進されていく際に最も大切にしなくてはならないことは、生命倫理であるとおっしゃっていました。生命倫理についての考え方は、時代時代で変化する部分もあるが、恩恵の共有化、プライバシーの尊重、人間社会の多様性の尊重という点においては、決して変わることがあってはならないとのべられました。
 
井上兼生先生による報告
―遺伝子を扱った授業の実践報告―
(17:15~17:30)
井上先生は、浅野先生の報告に対する意見を述べてくださいました。そして、「遺伝子技術・医療に関する生命倫理教育」と題した資料を参加者全員にくださいました。最近の遺伝子関連記事等を我々に見せられながら、遺伝子技術、遺伝子医療の歴史的位置付け、遺伝子治療の医療行為としての位置付けを説明して下さいました。また、医療行為が正当であるかどうかの判断粋を医療行為の古典的正当条件をもとに説明して下さいました。
最後に、ヒトゲノム解析に関する生命倫理教育と題し、ヒトゲノム解析計画に期待することとそれらの問題点の両者からコメントをおっしゃりました。

全体での討論
(17:30~18:00)
浅野先生による報告と井上先生による報告をもとに参加者全体での討論を行いました。
 日本ではベンチャー的な研究に欠けている、医学的な治療法は100%安全性が保証されていないなどの意見がだされました。また、そられに関して経済的な問題と生命倫理学的な問題の両方の面から議論されました。

参加者からのコメント
(「コメントシート」「ふりかえりシート」から)
■遺伝子治療がまだ実験段階であると研究者自身が認識していること、研究の自由を強く求めていること、当事者以外への配慮が感じられなかったことに気づき、学んだ。
■広い視野を持ち、自分を位置付けるよう気をつけたい。
■悪い人ではないと思うが、無邪気さ、幼稚さ(といっては失礼。純粋さ)が、技術を手にしているという印象が強く、ある面おもしろかった。
■浅野先生の明快で分かりやすい説明を通して、遺伝子治療の最前線の状況が大変良く理解できました.また、欧米と比べた日本の、圧倒的に遅れた状況―臨床研究のプロトコル数が米国約250に対して、日本が3といった表面的な数字よりも、安全性の評価、審査機関がまったくないといったインフラ全体が未整備であることの方が深刻―もわかりました。日本を代表する研究者責任者の一人として、研究インフラ整備に全力をかたむけながら、バイオエシックスと研究者倫理の重要性も強調される浅野先生の姿勢には感心しました。
■浅野先生は、先天性の疾患は、病気ではなく、多様性のひとつであり、それが本人や周囲にとって大きな苦悩を伴う場合を病気とみなすべきをいう見解を述べられました。また、病気や患者と、それに対する治療は、一様に論じることでは出来ず、その多様性を認めることが重要であること、そして、情報を隠さず、その透明性を確保しながら、性急に決めつけることなく議論を続けることが大切であることを特に強調されました。豊富な臨床研究の経験を踏まえた発言であり、大変大事な視点を提示していると思いました。
■日本の遺伝子治療研究をリードする方の話しを聴き、質問することができたことは大変有意義でした。浅野先生と、メイサー先生とは心より感謝いたします。
今後も、このような企画を是非続けてほしいと思うとともに、もっと多くの教員に参加してもらえたらと思いました。今後は、参加者を増やす方法を工夫していく必要があると思います。
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