「学校における生命倫理教育ネットワーク」第20回勉強会報告

Page last updated on 8 June, 2004. Comments to: Email <asianbioethics@yahoo.co.nz >.
ダリル メイサー(責任者、筑波大学 助教授)
〒305 つくば市 筑波大学 生物科学系
生命倫理に関する教育研究グループ
ファックス番号:0298-53-6614


2000年10月7日午後3時〜6時まで
麹町学園女子高校にて
ニュージーランドの生命倫理教育セミナー報告。
1.白石直樹(足立新田高校):   ニュージーランドの生命倫理教育について
2.大谷いづみ(国分寺高校)   ニュージーランドの高校教育に触れて    〜社会科・英語教育を中心に

7月7日に予定されていた勉強会は台風のため、会場の麹町学園女子高校が休校になり、中止となってしまいました。勉強会の時間には晴天でしたので、情報が間に合わずに来場された方がいないかと心配ですが、いかがでしょうか?

さて、メイサーの企画で、8月上旬、ニュージーランドでのネットワークの生命倫理教育セミナーが行われました。5日にクライストチャーチ教育大学で行われた1日セミナーでは、メイサー、白石、大谷の3人の発表の他、当地の環境教育、生物での生命倫理教育、社会科で critical thinkingのトレーニングに当たっている中等教育の教員、教育大学で生命倫理教育の教員養成にたずさわっているLindsey Connerさんから、さまざまな話を聞くことができました。また、Connerさんのアレンジで、当地の高校を2校訪問し、授業見学をした他、生徒たちとバイオエシックスについてのディスカッションも経験(?)して来ました。

白石、大谷両人とも大いに刺激を受け、多くの収穫を得て帰ってきました。参加を望みながらかなわなかった会員も多いと思いますが、収穫の一端でも報告できればと思います。
大勢の方の参加をお待ちしています。

<参加者>
社会科
井上兼生先生(埼玉県立大宮中央高校)
大谷いずみ先生(上越教育大学)
小泉博明先生(麹町学園女子高校)
田中裕己先生(名古屋大学教育学部付属高校)
山下亨先生(東京都立東村山高校)

生物科
加藤美由紀先生(日本女子大付属高校)
白石直樹先生(東京都立足立新田高校)
坪井重子先生(埼玉県立南稜高校)

       斎藤美貴さん
メイサー、ダリル(筑波大学生物科学研究科)
前川史(筑波大学生物研究科学系)
近岡三喜子(筑波大学第2学群生物学類)

勉強会の流れ

オリエンテーション、アイスブレーキング
(15:00〜15:20)

まず、第20回の勉強会のテーマを説明し、ニュージーランドの生命倫理教育セミナーに参加してくださった、白石直樹先生と大谷いづみ先生に発表していただくこと、その後全体で話し合いをすることなど、大まかな流れをお知らせしました。
また、大谷いずみ先生が書かれた本 「生命の教育」を皆さを皆さんにご紹介させていただきました。参加してくださった先生方は大変興味をおもちのようでした。
そして、今回はじめて参加してくださった先生方や久しぶりに参加してくださった先生方もいらしたので報告をはじめる前に、皆さんで簡単な自己紹介をしました。

白石直樹先生による報告
ニュージーランドの生命倫理教育について
(15:20〜15:40)
白石先生は2000年8月にメイサーの企画で行われたニュージーランドの生命倫理教育セミナーに参加されました。
クライストチャーチ教育大学で行われた1日セミナーでは、白石先生、大谷先生、メイサーの発表の他、当地の環境教育、生物での生命倫理教育、社会科でcritical thinkingのトレーニングに当たっている中等教育の教員,教育大学で生命倫理教育の教員養成にたずさわっているLindsey Connerさんから、さまざまな話しをお聞きになったそうです。また、Connerさんのアレンジで、当地の高校である Villa Maria College(カトリック系私立女子高)と、Cashimere High School(公立共学中学校)の2校を訪問し、授業見学をした他、生徒さんたちと生命倫理についてのディスカッションも経験されたそうです。
まず、ヴィラマリア高校では13年生の生物学の授業で、個体数のコントロールについての授業について生物学の先生が担当しているクラスと社会学の先生が担当しているクラスの両方を見学されました。そこでは、新生児の体重減少の増加について対話形式で活発に質疑応答や意見交換が繰り広げられ、生物学の中でも生命倫理に関することが当然のように扱われているのがとても印象的でしたと先生がおっしゃっていました。教科書の内容をそのまま板書きする授業ではなく、OHPでデータと設問を提示し話し合いを進めていく形だそうです。
そこで白石先生は、当地での生命倫理教育は、まず具体例を示し、それに対する個人の意見を述べ合い、グループの意見としてまとめあげて最終的に討論にもっていくという具体例をあらかじめ配られたプリントで示してくださいました。生徒一人一人が自分の考えを出し合い、全体の中での自分の位置を見る教育と日本で行われている生命利教育とを比べ、根本的な学校教育のあり方の違いを見る事が出来ました。
また、12年生のGeologyのクラスは、ある地形図のコピーを配り、堤防の地形や防風林の役割などの話題から現実的な話題へと先生の話しと生徒の質問で進行していったそうです。
もう1つ訪れたカシミア高校は、ヴィラマリア高校と雰囲気が異なり遅刻も多く、紫色に髪を染めている生徒もいたそうです。
そこでは、13年生の化学、物理、11年生の生物の授業を少しずつ見学されました。マンディ先生の担当する授業では生徒と直接会話をする時間を取っていただき、活発な意見質問が出されたそうです。そこで白石先生は、宿題を良くやるが喋らないアジア系の生徒と提出物はひどいが良く喋るヨーロッパ系の生徒の反応が対照的だとおっしゃられていました。ヨーロッパ系の生徒は質問を自分の言葉で表現できるのだそうです。
2つの高校で共通していた事は、授業が先生と生徒のやり取りで進められ、日本で主流の講義形式でなかったことと、授業内容が具体的かつ現実的な教材を生徒自身がどう扱う事が出来るようにするかに重点が置かれているとのことでした。
クライストチャーチ教育大学で行われたセミナーでは、当地の先生方の環境教育プログラムの紹介や、具体的な教材を使った模擬授業など、プレゼンテーションのやり方に感心してしまったそうです。具体的な問題について自分の意見を確立し、全体の中で位置付けをすることは共通してみられたそうです。ニュージーランドでもアジア系の生徒は基本的に余り話さない子が多く、文化の違いも大きいのではないかと考えられたそうです。

全体での討論1
(15:40〜16:10)

まず、白石先生の報告をもとに全体で質問や意見を出し合いそれをもとに話し合いを行いました。
質問はおもにニュージーランドの高校での具体的な生命倫理教育の内容に対するものでした。ニュージーランドの生徒は基本的に自分の意見は正しいと考えており、討論を通じてお互いを理解していくのに対し、日本の生徒は物静かで自分の意見を言わない子が多いと先生は指摘されました。
また、カシミア高校の化学のテストについてどうのようなものかという質問に対して、テスト内容は自分のデータを基に作成するもので日本のテストとは違うものでしたと先生が答えられました。
基本的にテスト結果よりも授業での討論内容に重点を置くのだそうです。また、講義後のチェックやノート提出もあるとのことでした。ノート提出となるとアジア系の生徒は真面目に立派なものを作成するのですが、討論となると控えめになり、ヨーロッパ系の生徒のほうが活発に意見を出し合うのだそうです。
当地での授業は、選択のための授業(個人レベル、社会的レベル)という色合いが強く、一人一人に自由に意見を述べさせる雰囲気が自然に出来あがっていたそうです。そこには教師の意見は重要視されていなく、日本のやらせ的な討論の授業とは違ったものだとおっしゃっていました。

大谷いずみ先生による報告
ニュージーランドの高校教育に触れて
―社会科・英語教育を中心に―
(16:10〜16:40)

大谷先生も先ほど述べたように白石先生とニュージーランドでの生命倫理教育セミナーに参加されました。
まず、2校の高校訪問について報告してくださいました。白石先生もおっしゃっていたように、ヴィラマリア高校はカトリック系のお嬢様学校というイメージが強く、カシミア高校は公立のあらゆるタイプがいる共学中学校だったそうです。しかし、どちらの学校も共通して言えることは、生徒が授業に積極的に参加したディスカッションをベースとした授業が展開されていたとのことでした。日本での一方的な知識伝達型の授業とは程遠く、セッティングした上での「やらせ」の空気がないと述べられました。
また、クライストチャーチ教育大学で行われた1日セミナーでの当地の先生方のプレゼンテーションからも参加型授業が垣間みられたそうです。
そこで大谷先生はニュージーランドの中等教育の社会科、生物、英語の全国共通カリキュラムについてプリントを交えて説明してくださいました。
全国共通カリキュラムは、学校教育の枠組を示す「New Zealand Curriculum Framework」と、その枠に基づいて各教科の達成目標や教育内容が示された「National Curriculum Statements」からなるそうです。
そこに見られる特徴は
1.初等、中等教育を見とおしたカリキュラム編成
2.他教科との関連と学際性
3.各教科に貫かれている実際性と実用性
4.「批判的思考critical thinking」の育成
 だそうです。大谷先生はこの4つの特徴をプリントなどで説明してくださいました。
まず、1については理科を除いて初等教育から義務教育でない後期中等教育までが一貫して扱われており、全体の目標を見通しながら、児童・生徒の発達段階に応じた到達目標が概観できるようになっているそうです。また上記の2の特徴としては,各教科の学力を見に付ける事が目指されつつも各教科での閉鎖性が排除されており、両者の特徴は日本での学習指導要領とは異なるものだそうです。
生命倫理教育に限定すれば、日本での生命倫理教育は主に社会科やまたは生物学の授業で取り扱われますが、ニュージーランドでは主に生物学の授業で取り扱われるのだそうです。生殖技術、遺伝子組換え食品,遺伝子診断などの話題も全て生物の授業で取り扱われ、その社会的倫理的影響までも授業の流れに組み込まれているそうです。そして技術の裏面を含めて批判的な考えを要求されている姿勢は大変重要なことだと指摘されました。同様に、「生物学の中の数学と価額の位置付け」も明記され、他教科との連関が図られており、専門性を大事にしつつも学際性に目を開いていく姿勢は日本も参考にされたいと述べられました。
上記3の特徴である、各教科に貫かれている実際生徒実用性については、どの教科にも到達目標に至る為の具体的なSkillが明示されているそうです。大谷先生は、現地で8クラスの授業を見学されたそうですが、どの授業も実際的だけでなく、ディスカッションあり、実験あり、フィールドワークありの活発で多様な授業展開だったそうです。日本とは異なり、生徒は「いつの間にか」授業に参加しており、知識が体系的に組み込まれているため,取り扱われている概念を自身に定着しやすいのではないかと述べられていました。
以上述べられた違いは、4番目の特徴であるCritical thinkingから来るものでないかと先生は指摘されました。ニュージーランドの教育過程の中に散見できる言葉が「Critical」という文言で、それが顕著に現れるのが英語教育であるそうです。「話すこと」「読むこと」「書くこと」のほかに「表現すること」と「読み解くこと」の能力が徹底的に磨かれ、その根底にあるのは「Critical thinking」と「Critical awareness」なのだそうです。英語教育を通じて鍛え上げられたCritical thinkingは他教科で活かされ、ディスカッションを主とした授業が展開されるのではないかと述べられました。
最後に大谷先生は、日本で取り入れられる特徴と、安易には取り入れられないものを考察されました。取り入れられるものとしては、上記の1、2、4であり、1については大学の一般教養も視野に入れたカリキュラムの編成が望ましいとお考えでした。
3の特徴である実際性と実用性については、マニュアル大好きで右にならえの日本人のようなCritical thinkingなしの実際性と実用性はありえないのでないか、とのことでした。
さらに現在の生命倫理教育は日本の教育を変えられるのか、「高校教育」とは何か、というところまで考察がおよびました。

全体での討論2
(16:30〜17:30)

まず、大谷先生の報告をもとに意見または質問を出し合い討論を行いました。全体の討論では活発に意見や質問が投げ出されました。その中で、坪井先生は日本とニュージーランドの文化の違いを指摘され、個人的な考えが述べられることが絶対的に良いわけではないとおっしゃられました。日本人の良いところはそのまま残し、国際的な舞台で自分の意見が述べられるようにする軌道修正が出来れば良いのではないかと述べられました。
さらには、日本の教育は戦後の経済成長期のマス生産型に見合う定形型人間の育成がいまだに残っているとの指摘がありました。
歴史の教育を取っても、日本では単語や知識をいかに覚えるかに重点が置かれる一方でニュージーランドの授業では概念を覚えることに重点が置かれているそうです。
議論はさらに「高校教育」とは何か、まで及びました。日本では、高校教師は学問を教えているつもりでも、受け止めている生徒は単に受験の為と考えてはいないのか、という意見もだされました。
日本で課題研究型のの授業を行ったらどうなるのか?という質問に対して、大谷先生は、おおかた日本で行われている参加型授業はほとんどやらせに近いと指摘されました。マスコミで最近取り扱われている小学生を中心とした参加型授業について、本来、小学生は基本的な知識を学ぶ期間であり、それをもとに高校生から総合学習を本格的に取り扱うべきではないのか、と述べられました。基本的な知識がない総合学習は成り立たなく、総合学習を行う前にまず基礎的なことから教えなくてはならない現在の教育カリキュラムにも問題がある、とご指摘されました。
日本とニュージーランドの生命倫理教育の違いは、文化の違いはもとより、お互いの教育過程の根本的な違いにも原因がありそうで、議論は奥が深いところにまで及びました。

休憩
(17:30〜17:45)

事務的連絡
(17:45〜18:00)

主に次回の勉強会の日程について、そして次回の発表者を決定しました。


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