「学校における生命倫理教育ネットワーク」第31回勉強会報告

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ダリル メイサー(責任者、筑波大学 助教授)
〒305 つくば市 筑波大学 生物科学系
生命倫理に関する教育研究グループ
ファックス番号:0298-53-6614


日時:6月13日 午後3時〜6時
場所:私立芝学園
内容:「生命倫理の教材開発プロジェクト」
をテーマに
発表者:前川 史 ダリル・メイサー
要旨:
 第30回勉強会でも一度ご報告いたしました、生命倫理教育のための教材開発プロジェクトが正式に始動いたしました。このプロジェクトは、笹川平和財団の支援を得て、2年計画で進められます。最終的な目標としては、高校の授業で副読本として使用できるようなものを作成することです。現段階では、英語教育の教材として第一版を作成中です。
 このプロジェクトへのご協力の呼びかけとともに、生命倫理教育に適した教材とは何か、課題やレベルの設定、実質的な使いやすさや評価のしかたについて、意見交換を出来ればと思っています。
特に、いくつかの章を授業で試してくださる先生を大々的に募集しております。このプロジェクトには海外からの参加も決定しており、国際的な意見交換も可能です。是非お知り合いの先生にもお声をかけていただきたいと思います。英語版のホームページは
Bioethics Education text book project home page
<参加者>
石塚健大 私立芝学園
井上兼生 大宮中央高校
江口一哉 私立芝学園
小貫浩 三郷高校
小泉博明 麹町学園
斎藤三男 実践生物教育研究会
白石直樹 隅田川高校
高橋美由紀 茗渓学園
橘 都 国際高校
田中裕己 大同工業大学教育課程
坪井重子 県立鴻巣女子高校
前川 史 筑波大学
三浦俊二 埼玉県立草加西高校
ミハエラ・シェルブレア 笹川平和財団
メイサー・ダリル 筑波大学

勉強会の流れ
 今回初参加の小貫先生と高橋先生を交えて、簡単に自己紹介を行いました。小貫先生は三郷高校で社会科を教えていらっしゃいます。高橋先生は、つくば市にある茗渓学園で同じく社会科を教えていらっしゃいます。

 今回は、2年にわたって計画されている、生命倫理教育の教材開発プロジェクトについて、前川から報告をさせていただきました。プロジェクトの背景として、科学技術の発展に伴い、その恩恵にあずかる傍ら、全ての年齢層で科学技術やその産物をどのように用いるかに付いての、倫理的選択をしなければならない時代に私たちは生きています。そんな中行われた、1993年の国際生命倫理教育調査(オーストラリア、インド、日本、ニュージーランド、シンガポール)の結果から、適切な教材が乏しいという意見が多いことが明らかになっています。また、既存の資料では不十分であるとの声が多いこともあり、笹川財団の助成金に申し込みをしたところ、2003年4月から2005年3月までの期間に援助を受けられることが決定しました。以上のことを受けて、このプロジェクトでは、異なる国々で用いることの出来る生命倫理教材の開発を目的として始動しました。また、この教材を用いて生命倫理教育の有効性に付いて評価する基準を、模索することも出来ると思われます。異なる教育方法で、どのような影響や効果が現れるのかを探ることが出来ればよいと思っています。
 次に、プロジェクトの時間割と計画を説明しました。まず初年度は、トピックごとの各章の執筆を7月上旬までには完了させ、ご協力いただける先生と連絡を取りそれぞれの章を授業で実践していただきます。先生方からのフィードバックを基に、それぞれの章を改定します。来年の1月下旬から2月中旬あたりに、第9回つくば国際生命倫理円卓会議を開催する予定です。この会議では各章の著者や、プロジェクトに参加してくださる先生方を交えて、英語と日本語の双方向で意見交換をしたいと計画しています。会議でのフィードバックを踏まえて、それぞれの章に改定を加え、第一版の印刷を行います。この第一版では、全ての章をまとめて一冊の本として出版することになります。次の年度では、まず印刷した第一版を世界各国に配布します。そして、その副読本にしたがって授業での実践を再度行っていただき、フィードバックを踏まえて2度目の改定を行います。2年度目の最後には、最終的な改定を行い、ホームページ上で自由に閲覧できるようにします。
 このプロジェクトには、すでに世界各国から協力の申し出があり、その一例として、オーストラリア、中国、インド、日本、ニュージーランド、フィリピン、韓国、台湾などが挙がっています。それぞれの参加国には代表者を選出し、各国での活動を取り仕切ったり、参加国間での連携を担当します。プロジェクトの全般にまつわる連絡先は、ダリル・メイサーと前川史が担当します。
 最終的な産物としては、前述の副読本が主な物的資料となります。この副読本は15歳くらいのレベルに合わせ、1時間前後の授業に完結するようデザインし、20あまりの生命倫理にまつわる問題を紹介し、それぞれのトピックにまつわる質問を作成します。それぞれの章は独立して使用することも可能で、基本的に自由にアクセスすることが出来るよう、ホームページ上で公開します。物的産物のほかに、人脈の構築があります。日本国内の先生同士はもちろん、国外の学校間で先生や生徒同士のネットワークを作りたいと思います。
 副読本に含まれるトピックの一覧は次のとおりです:
1. 生命倫理への導入
2. 動物実験
3. 遺伝プライバシーと生命保険
4. 自家用車の利用
5. エコツーリズム
6. 持続性(持続的開発)
7. 遺伝子組み換え食品
8. 生殖活動と生殖補助技術
9. ダウン症の出生前診断
10. 異種移植
11. 臓器移植
12. 脳死
13. 二酸化炭素の排出量に関する政策
14. ガン遺伝子の罹患性検査
15. 末期患者へのがん告知
16. 安楽死
17. 新薬の治験に参加する際のインフォームドコンセント
18. エイズ検査
19. 筋ジストロフィー患者の家族が抱えるジレンマ

続いて、参加者の募集に関わる説明を行いました。まず、参加する条件は特にありません。興味を持ってくだされば、どなたでも歓迎します。次のとおり、いくつかの参加形態を紹介しました。
1. 副読本の章や質問の執筆
2. 授業での実践、フィードバック(章ごと、第一版の副読本)
3. 既存の資料や、教育方法の提供
4. 更なる参加者の紹介、ネットワークの形成と維持

 実際に授業で副読本(または章の一部など)を実践していただく場合、どの章を使用するか、またはどの授業で(科目で)使用するかは各先生方にお任せします。また、先生方には授業に専念してもらうため、可能な限り授業参観という形で、オブザーバーを派遣できるように計画しています。授業を実践してくださる先生方には、それぞれの国の代表者に、授業の内容、授業で配られた資料、もしあれば生徒からの提出物、教員のコメントや批判などの報告をしてもらいます。
 参加してくださった先生方には、アフターケアとして、回収された報告のまとめや情報を随時提供していきます。各章はフィードバックを受けた後で改定を行い、2004年の4月までに、全ての章をまとめた形での副読本を印刷・製本し、参加校に配布する予定です。
 この教材が第一に対象としているのは英語の授業ですが、生命倫理分野の特徴として、ある特定の科目にしばられずに使用することが可能、または望ましいと思われます。英語の授業をターゲットにした理由の主なものとして、カリキュラムからの制約が少ない点が挙げられます。社会科や理科などで、ネットワークメンバーの先生方の多くが生命倫理の授業を行う際に、一番問題点として頻繁に挙げられる理由は、教えなければならない内容から外れている、という点です。それに比べ、英語の授業では習得しなければならない文法や語句がある程度カバーされていれば、文章の内容に付いては融通が利くという事実があります。実際、既存の英語の教科書でも、環境問題を取り上げたものや、脳死や安楽死を取り上げたものなど、生命倫理に関わる題材が含まれています。
 このプロジェクトでは、様々な国での試行が予定されているため、同じような次期に同じトピックについて異国間での先生・生徒による対話が可能です。各章では、文化的な意見の違いに付いても出来る限り触れるようにし、国際理解に努めたいと考えています。
 現段階で確定している国際協力の一例として、北京での実践計画を挙げます。2003年9月1日から、北京師範大学附属高校と、ヘイピン男子高校において、生命倫理の選択授業を開催する予定です。生徒の年齢は16歳前後で、高校1・2年生を対象としています。各授業は20〜30人ほどで、毎週90分の授業を10〜15週実施する予定でいます。もし同じ時期に授業を実施できる学校があれば、生徒や先生同士で連絡が取り合えると思います。
 ここまでの内容を踏まえて、グループディスカッションで話し合ってもらう内容の説明をしました。まず、当日配布した副読本の見本ページへの批判、トピックに対する意見、評価方法、カリキュラムと時間的な制限に付いての意見を回収したいと提案しました。見本ページへの批判として、主に次の点に付いて意見を伺いました。
1. 足りないものは?
2. 改善点
3. 英語のレベル
4. 時間配分
5. 文章の内容と形態(ケースベースアプローチ等のほうが効果的か)

 それぞれの科目ごとに、教育の評価方法や有効性の測り方があると思いますが、生命倫理教育の目標としているものとして、アンケートなどで寄せられた意見では、次の3つの点が主に挙げられてきました。1)生命の尊重を促す 2)科学や技術の利益とリスクのバランスを取る 3)意見の多様性を尊重する。 生命倫理の授業が成功したといえるには、これら3つの目標全てを達成しなければいけないのでしょうか?
 次に、教材の有効性の評価ですが、授業での発言、生徒の関心度、内容のレベルが適切であるか、質問やアクティビティーのレベルが適切であるか、また、教員の期待に沿った内容であるか、などの観点があるのではないでしょうか。全般的なフィードバックとして期待するのは、既存の資料や、教科を問わず興味を持ってくれそうな先生方のお名前、英語科の先生の紹介、また、日本語版を試していただける先生のご紹介です。
 最後になりましたが、この副読本は、文部省のカリキュラムに生命倫理を組み込もうとする活動とは別個のものです。この教材が、生命倫理教育を発展させ、新しい方法を試したりするインスピレーションになればよいと思っています。
 発表に続いて、質疑応答の時間をとりました。まず、今回提供したサンプルページを実際にどれくらいの時間を掛けて行うのか、という質問が出ました。分量的に、通常の高校の英語の授業ではとても無理なのではないか、という指摘がありました。その点に関しては、実際に英語科の先生にアドバイスをもらう必要があるのではないか、という指摘もありました。トピックの一覧には環境倫理的なものから、医療倫理まで、幅広く含まれていますが、どのようなまとまりを持たせるか、更に考えていく必要がある、という意見も挙がりました。前述のように、生命倫理という分野の特徴として、多方面にまたがる場合が多いので、総合的学習の時間で取り上げる可能性もある、というご指摘がありました。加えて、英語の授業での実施だけでなく、例えばそれまでに社会科や理科で似たようなテーマに付いて取り扱ったことがあるかないかで、生徒の反応も違ってくるので、教科課程表を提供してもらう必要性も出てくるのではないか、という意見も挙がりました。更に、国際比較をする際に、言葉やトピックの解釈が違ってくると思うので、そこも考慮する必要があるというご指摘も挙がりました。
 10分間の休憩を挟んで、グループディスカッションを行いました。3つのグループに分かれて、@サンプルページへの批判A評価項目Bトピック、カリキュラムと時間的制限についてそれぞれ意見を出し合い、まとめを全員で共有しました。

@ まず、サンプルページに対する批判を行ったグループからまとめを発表してもらいました。サンプルページの文章では異なるスタイルのものを提示したのですが、その中でもケーススタディを扱ったものが、生徒には受け入れられやすいのではないか、という意見が上がりました。また、生命倫理への導入と題して作成されたものは、コンセプト的にあまりにも難解で、日本語で提示しても高校生には理解がしにくいのではないか、それよりもむしろ、各々のトピックを紹介した後で、まとめとして「生命倫理とは」、という章を設けたらどうか、という提案もありました。更に、共通の材料として英語科で使用できる副読本を作成するのはもちろん、各参加国の母国語でも出来れば教材を準備したらどうか、という提案もありました。そして、この教材を使用する先生が用いるティーチャーズガイドがあったほうが良いのではないか、という意見も挙がりました。副読本全体としては、一冊の本として何を教えたいのか、各章で何を教えたいのか、流れや目的をはっきりさせたほうが良いという指摘もありました。加えて、生徒の興味や関心をひきつけるための説明図や写真をもっと効果的に使用したほうが良いだろうという提案もありました。
A ついで、評価項目を議論したグループのまとめを発表してもらいました。このグループでは、生命倫理を教える教材を選ぶ際の観点に付いて述べていきました。生命倫理を教えるときに取れるアプローチとして、社会全体からの論点と、個人として問題をどう捉えるかという論点のふたつに分けられるのではないか、という意見が挙がりました。今の段階で求められているのは、やはり高校生の興味をひきつけるという点からも、教師と生徒が供に考え合えるような教材で、日常生活との接点があり身近に感じられるような題材を扱っているものである、ということが議論の過程で明らかになってきました。生徒自信の体験や、その人の立場に立って考えられる、という導入部から、それでは家族や身近な人たちの場合はどうするのか、社会全体ではどうするのか、というように話が膨らむのではないか、という指摘が挙がりました。ただ、新聞記事など特定の事例を示すだけでよいのだろうか、という意見もありました。教科書的な答えを導き出すだけにならないように、バランスの取れたテキストの内容が必要だ、という指摘がありました。
B 最後に、トピックに付いて意見を交わしたグループのまとめを発表してもらいました。まず、今回提案されたトピックのほかにも取り扱って欲しいトピックをふくめて、それぞれどの問題を優先的に取り扱って生きたいかを挙げてもらいました。そのなかで、新たに提案されたトピックとして、次の物が挙げられました。妊娠中絶、化学兵器や細菌兵器、ターミナル・ケア、クローン、環境ホルモン、安楽死、奇跡的生還者の生死感、再生医療、ヒトゲノムの解析、命の選別に付いて(男女の産み分け等)、生命倫理の南北問題、戦争等です。高校生にとって身近なもの、また時事問題とも絡んだものを取り上げると興味深いのではないか、という提案がありました。ここでも、一冊の本として何を問題とし、何を伝えて行きたいかの軸が必要ではないかという意見が挙がりました。ランダムにトピックを提示するのではなく、ある程度グループ化した形で表示したほうが分かりやすいのではないか、という指摘もありました。
グループからの発表を終えてから、次回の勉強会の日取りや、日本語版のメーリングリストの発足、参加者の募集などに付いての補足を行って、今回の勉強会を終了しました。その後も、夕食の席で、更に議論を続けました。

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