学校における生命倫理教育ネットワークニュースレター
Vol.2 (2) September 1998


編集:岡武志
発行:ダリル メイサー(責任者、筑波大学 助教授)
生命倫理に関する教育研究グループ
〒305 茨城県つくば市 筑波大学生物科学
FAX:0298-53-6614 / TEL:0298-53-4662
Email < asianbioethics@yahoo.co.nz >.
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目次
編集室から 1
学校における生命倫理教育ネットワーク 第10回勉強会報告 ─研究プロジェクトの計画について─ 2-3
第11回勉強会報告 「生命倫理の授業をやってみて─生老病死をどうやって教えるか─」3-10
学習指導要領の変遷と新しい流れについて (板谷裕子先生) 11-12
調査に関するお願い - (メイサー、ダリル) 12
ネットワーク活動報告書の出版について 22
イベント情報ーつくば夏合宿のお知らせ 22
教材発掘 23
第10回勉強会のお知らせ 23
第11回勉強会のお知らせ 23
学校における生命倫理教育ネットワークとは
教育における生命倫理の役割、生命倫理における教育の役割を探るために、1996年12月に発足したネットワークです。隔月の勉強会、ニュースレターを通じて、ネットワークは、生命倫理教育に興味を持つ人々をつなぐ場としての機能をはたします。特に高校での生命倫理教育に注目していますが、生命倫理教育に関心のある方ならば、どなたでも参加できます。
編集室から

 日ごとに秋の気配が深まってまいりました今日この頃、ネットワークの皆さまにはいかがお過ごしでしょうか。第4号からずいぶんと時間がたってしまいましたが、ここに第5号をお届けします。

 今回は、5月に開いた第10回勉強会の報告、6月に開いた第11回勉強会の報告を掲載しています。また、板谷先生からいただいた学習指導要領の変遷と新しい流れについての投稿文と、メイサー先生の方から、調査依頼文を掲載しています。さらに、それに関して、私達の方からのアンケート用紙を同封させていただきました。お忙しいところ申し訳ございませんが、貴重なご意見、ご協力をお願い申しあげます。

 今回は、この4月より浅田さんの後を、私達大学院生が引き継いでから書く初めてのニュースレターとなります。私達はここ数カ月間、就職活動や教員採用試験などがありまして、ニュースレターが遅れてしまいました。現在は、就職活動もひと段落し、それぞれに修論に着手しています。

 ネットワークの仕事も慣れないところが多く、いろいろ不手際も多いとは思われますが、みんなで力を合わせてがんばっていきたいと思います。なお、次回ニュースレターは、先日行われましたつくば夏合宿の報告などで、11月頃お届けする予定です。ご了承下さい。それでは、勉強会で会えることを期待しております。           
岡 武志


第10回勉強会報告 ─研究プロジェクトの計画について─
<とき・ところ>
1998年5月16日午後3時〜6時
東京都立日本橋高校にて

<参加者>
社会科
井上兼生先生(埼玉県立大宮中央高等学校)
大谷いづみ先生(東京都立国分寺高等学校)
小泉博明先生(東京都麹町学園女子高校)
田中裕巳先生(名古屋大学教育学部附属高校)
三浦俊二先生(埼玉県立草加西高等学校)
山下亨先生(東京都立日本橋高校)

生物科
白石直樹先生(東京都立足立新田高校)
橘都先生(東京都立羽田高等学校)
細田真奈美先生(埼玉県立浦和第一女子高校)

庄司進一先生(筑波大学臨床医学系)

雨宮浩二(筑波大学環境科学研究科)
小松宏充(筑波大学バイオシステム研究科)
鶴田一司(筑波大学教育研究科)
日暮久敬(筑波大学環境科学研究科)
メイサー、ダリル(筑波大学生物科学研究科)
岡武志(筑波大学教育研究科)

勉強会の流れ

オリエンテーション、自己紹介
(15:00〜15:30)

 まず、今回の勉強会の趣旨を説明しました。この回の勉強会は通常の勉強会とは異なり、いつも行っている実践報告は行わずに、今後の研究プロジェクトやネットワークのあり方についての議論を行いました。これは、前回の勉強会の最後に行った話し合いを引き継いだものでした。次に、このようなことを説明しながら、自己紹介を行うこと、各自のプロジェクトについて発表、説明、そのプロジェクトについて議論を行うことなどといった大まかな流れを説明しました。
 その後、全員で自己紹介をしました。今回は、私たちが浅田さんから引き継いでから一番最初の勉強会であり、区切りの回であったので、通常のアイスブレーキングは行わずに、各自、名前と所属、現在行っていることなど簡単な自己紹介を行いました。またこのとき田中先生の方から、生命倫理教育ネットワークの活動報告の出版についての進行状況報告がありました。
 それから、今後の勉強会、研究プロジェクトについての話し合いを行いました。


研究プロジェクトの計画について
(15:30〜17:40)

 まず、今後のネットワーク・勉強会のあり方やプロジェクトについてあげられたものを、箇条書きで示します。

#倫理教育の授業案、指導案を勉強会において作製、開発する
#ビデオ教材を中心とした倫理教育について考える
#幼稚園から大学まで系統的にとらえた生命倫理教育について考える
#生命倫理教育の実践例を通しての討議を行う
#勉強会で模擬授業を行ない、それに対する議論をする
#海外における生命倫理教育の実践例を学ぶ
#医療現場などの見学を行う
#生命倫理学を研究している方や、先端医療で働いている方を外部講師を勉強会に招く
#文部省への提言や働きかけをしていく
#学校へ出向いて授業見学や公開授業を行う
#ニュースレターに授業案を投稿してもらいそれを載せていく
#メーリングリストをたちあげる

以上のようなことが、出席者の皆さんからそれぞれあげられました。そして各自が発表した後に、その内容について話し合いの時間を持ちました。
 その後一通り発表が終わってから、全体で今後のネットワークや勉強会のあり方についての話し合いを行いました。この話し合いで最終的に得られた結論としましては以下の2つが得られました。まず一つは、勉強会は、発表者をたてて生命倫理教育の実践例報告を行うといった、今までの形を基本的には維持することとなりました。そしてもう一つは、今回あげられたプロジェクトについては、それぞれに興味を持った人たちで個々に進めていくこととなりました。この結果となったことは、このネットワークの目的自体が、生命倫理教育に携わっている先生方がつながりを持つことであり、また先生どうしの意見や情報交換の場にすることなどが理由としてあげられました。話し合いは、私の司会進行の段取りが悪かったこともあり、時間的に余裕がなくなってしまい、十分ではなかったかもしれません。しかし、基本的には以上のような結論に落ちつきました。


まとめ、事務的な連絡
(17:40〜18:10)

 次回勉強会について、また、8月に予定されているつくば夏合宿についての連絡、日程などの話し合いを行いました。
第11回勉強会報告 「生命倫理の授業をやってみて─生老病死をどうやって教えるか─」
とき・ところ
1998年6月27日午後2時〜5時
東京麹町学園女子高校にて

<参加者>
社会科
井上兼生先生(埼玉県立大宮中央高校)
川上望先生(東横学園女子高等学校)
小泉博明先生(東京都麹町学園女子高校)
田中裕巳先生(名古屋大学教育学部附属高校)
三浦俊二先生(埼玉県立草加高校)

生物科
白石直樹先生(東京都立足立新田高校)

庄司進一先生(筑波大学臨床医学系)
山本美貴先生(正則高等学校、養護)

雨宮浩二(筑波大学環境科学研究科)
小松宏充(筑波大学バイオシステム研究科)
鶴田一司(筑波大学教育研究科)
林聡子(筑波大学第2学群生物学類)
日暮久敬(筑波大学環境科学研究科)
メイサー、ダリル(筑波大学生物科学研究科)
岡武志(筑波大学教育研究科)

勉強会の流れ


オリエンテーション、アイスブレーキング
(14:00〜14:25)

 まず、第11回勉強会のテーマを説明し、埼玉県立草加西高等学校の三浦俊二先生に発表をしていただくこと、その後グループに分かれて話し合いをすること、話し合ったことや思いついたことは積極的に紙に書く方法を取ることなど、大まかな流れをお知らせしました。又、前回の勉強会で話が出たこのネットワークのメーリングリストについて、これを立ちあげたことを報告しました。
 その後、参加者全員で、2人1組となり、自己紹介をしました。この自己紹介では、一方が自己紹介をし、一方は聞き、時間を区切って行いました。もっとも、もうすでに初対面ではない場合が多かったため、その場合は、お互いに近況報告をしあいました。続いて、2組ずつの4人のグループを作り、パートナーを他の人たちに紹介する他己紹介をしました。このときできた4人のグループを、この勉強会で話し合いをするグループとしました。

三浦先生の実践例報告
生命倫理の授業をやってみて
(14:25〜15:45)

 まず、三浦先生は生命倫理教育を選択授業の中で実践されてきました。しかし、生命倫理を中心に扱うのは時間的にも内容的にも難しく、厳しいそうです。その中でもNHKのビデオなどを使って、生と死、生老病死を授業全体のテーマとして、授業を実践なされているそうです。
 実際の授業実践の全体の流れとしては、まずはじめの導入として、「アキラ」のアニメビデオや「エヴァンゲリオン」の新聞記事などを教材に使われるそうです。これらをまず見せて、生徒達に感想を書かせ、生徒達の興味関心を引かせる導入教材とされています。「アキラ」のアニメビデオを使用される意図については、「アキラ=科学技術の変容体」として捉えることもできるかもしれないと考えられており、現代文明の予感として授業の導入部で扱われているそうです。また、「エヴァンゲリオン」の新聞記事については、新しい現代の社会現象として、又、心の実体として現代の若者文化について問いかける、そのような意図でこの記事を取り上げられたそうです。
 次に、神戸の悲惨な事件をテーマに生徒達に論じてもらっています。この中で、「透明なぼく」との表現に対して生徒はこう表現されたそうです。“自分を「透明なぼく」と表現することは、誰にも犯すことのできない絶対的な意味と、かまってほしくてもかまってもらえない、という2つの意味が込められているように感じた”。このようなレポート、コメントを、はじめはかけない生徒でもやがて書けるようになっていくとのことでした。又、こちらが驚かされるようなコメントが、書かれることもあるとも述べられてました。
 それから、「臓器移植」と「脳死」についての授業を行ったそうです。これについては、NHKの「脳死」及び新聞資料を参考に生徒に論じてもらい、又、アンケートをとられたそうです。また、NHKの特集ものとしては2回シリーズの「生老病死」を、生命倫理の概説として使われたそうです。この特集は、生命工学の直面しているジレンマについて良くわかるようになっているが、少し生徒にとっては難解だったそうです。これについて、ビデオを見せた後で生徒にレポートを書かせるそうです。
 又三浦先生は、バイオエシックスについての全体的、総括的なもの、それぞれのつながりなどを図解にして示されています。これは、生徒に示す生命倫理の概要だそうです。この図は10ページをご覧下さい。

●質疑応答●
 
 発表の後で、様々な質問がありました。まずこの授業の時間について質問があがり、週一回で2時間分、100分の授業を行うと述べられました。次に評価法について質問があがり、基本的にはレポートだけで評価されているそうです。又、テスト前に参考図書をもってきて、生徒達に読ませ、それについてもレポートや感想文を書かせることを述べられてました。
 アキラ、エヴァンゲリオンについて、生徒の反応はどうかという質問では、生徒達は興味を示してくれるそうです。またアキラについては、テクノロジーを見てどう感じ、どう解釈するかを意図されているそうですが、エヴァンゲリオンについては、先生自体もまだまだ良くわからない部分が多く、実験段階であることも述べられてました。発表や討論会についてはどうしているのかといった質問については、まだ行っておらず、準備してこれからやってみたいと述べられてました。


グループに分かれての話し合い
(15:45〜16:15)

 アイスブレーキングのときにできた4人1組のグループに分かれ、話し合いをしました。話し合いのテーマとしては、「生命倫理をどう教えるか、生老病死を中心にその教授法や授業内容を考える」と設定しました。まず、ひとりひとりが、この点について三浦先生の発表を踏まえながら、ポストイットに生命倫理教育をどう教えるかや、教授法、教授内容などをを考を書き込みました。そして、1グループに1枚ずつ用意された模造紙に、ポストイットを張り付けながら、それぞれの関連性を探り問題点を明らかにしていく、という形で話し合いを進めました。気づいたこと、話し合ったことは、随時、模造紙にマジックで書き込むようにしました。
 そして、コメントシート(報告書に載せてみたい提案などを書く欄と、報告書には載せないけれども勉強会の間に気づいたこと、気になったことなどを書く欄からなるA4サイズの紙)を一人一枚ずつ配布しました。コメントシートは勉強会終了後、回収しました。


全体でのわかちあい
(16:15〜16:45)

 ポストイットを張り付け、意見を書き込んだ模造紙を囲みながら、各グループで話し合ったことを全員に紹介しました。出来上がった模造紙は、後半のページに示しました。又、この勉強会を通して気がついたこと、意見、感想などをコメントシートに書いてもらいました。


まとめ、事務的な連絡
(16:45〜17:05)

 連絡としては、8月の夏合宿の細かな日程や内容について行いました。また、ネットワーク活動報告書の出版に関するお知らせを、名古屋大学教育学部付属高校の田中先生からいただきました。内容は出版の進行状況、出版の内容などでした。出版の詳しい内容を以下に示します。

 
高校における生命倫理教育の実践
-総合的学習への模索-
                   
ページ数
はじめに                   2

総論                  

第1章 メイサー、ダリル          11
生命倫理教育は国際的関心
1、生命倫理とは何か
2、生命倫理教育をめぐる世界の動向
3、日本の生命倫理教育の発展を
(本文-8、参考文献-3)

第2章 浅田由紀子             35
日本における高校での生命倫理教育ネットワーク
1、はじめに
2、国際生命倫理教育調査と教材開発
3、ネットワークの設立
4、勉強会
5、個々人の試行の発展
6、グループ分析
7、結論
8、謝辞
(本文-28、参考文献-2、表-5)

第3章 田中裕巳              22
総合学習「生命について」の授業から
-高校における総合的学習の課題-
1、はじめに
2、3年生の選択科目としての実践
3、生命倫理教育の視点から
4、総合学習のテーマとしての生命論

各論@倫理篇

第4章 大谷いづみ             21
公民科『倫理』における生命倫理教育の可能性
1、はじめに
2、公民科『倫理』の「これまで」と「これから」
3、公民科『倫理』と生命倫理教育
4、おわりにかえて
(本文-14、脚注-4、資料-6)

第5章 小泉博明              18
病の人間学・・・病をめぐる生命倫理
1、はじめに
2、健康と病気-人間は病む者である
3、病気の文化史-負の異文化交流
4、文化が語る病

第6章 井上兼生              26
環境倫理教育と生命倫理教育
〈モード2教育〉としての「総合的学習」の必要性
1、はじめに
2、環境教育の現状と問題点
3、環境倫理教育の課題
4、環境倫理の様々な論点
5、環境倫理教育と生命倫理教育との連携
6、授業実践における留意点・反省点
(本文-24、注-1、資料-1)

各論A生物篇

第7章 鈴木宏治              15
『解剖』といのちの重さ
1、解剖前の生徒達〜どよめく生物室〜
2、解剖の授業
3、生徒の経験・生徒の気持ち-アンケートより-
4、考察-解剖を行う意味-
(本文-6、資料-9)

第8章 白石直樹              11 
生物学と生命観・・・脳死の授業から
1、はじめに
2、脳死の授業について
3、生徒の反応
4、脳死の授業について考えていること

第9章 槙本直子              30
現代社会の課題を考える「生物蘗」の授業実践
1、はじめに
2、教育課程における生物の位置づけ
3、「生物蘗」の授業内容
4、生徒の反応
5、終わりに



-参加者からのコメント-

コメントシートから

■生命倫理とは、まさに「答(正解)のない」ものであり、生命について、自らが主体的に考えていくことであろう。「生命倫理学」という枠組みで、その内容を決定していって良いのであろうか。学者によるトップ・ダウンではない一人ひとりからのボトム・アップであらねばならない。

■どのグループでも比較的に似たようなディスカッションの内容になっていたのではないか。
生老病死という”人間に共通の現象”を通して生命倫理を考えていくことの有効性を感じることができた。

■生命倫理学から考えられる正解が確としてあるわけではない。

■正解と思われるものを討論で追求することは意味深いこと。

■正解が判明できないと安心でないという考えは解答編をなくした問題集はやらないといった理論のよう。人生や世の中はもともと正解が明確でない。だからこそ考え続ける必要がある。

■運命共同体のこの地球の生命を豊かに大切にしていきたい。

■生命倫理教育。「いのち」と「死」。
「いのち」と「死」は教えられるのものではなく、一生を通じて学んでいくものだから、高校の教育では、考える一つの機会として、生涯その「いのち」について考えることの基本となれば良いのではないかと思う。自分の考えと、人の意見を尊重することを学ぶのも大切だと思う。

■日頃子どもたちに接する中で、自分の頃からは想像しがたい体の変化、身体感覚の変化にひっかかりを感じています。又、そのことが、身体観・いのち観の実感の希薄さにもつながっているような気がしています。日常での生活体験のとぼしい中で、「今、ここに生きている」という実感を持てるようになるのか、そのヒントを頂いたように思います。

■三浦先生の授業は、アニメなどを用いられ楽しそうですね。ただ見せるだけでなく、そこから認識を深めるためには、授業者も事前に何度も見たり大変さがわかります。

■生命倫理教育は、小・中・高の総合的学習や「心の教育」の中心に位置づけられるべきだと思います。このネットワークの役割も大きいと思います。

■QOL、SOLなどむずかしい問題が山積みである。
教えるのではなく考えさせることが重要だ。
生命倫理教育の意義は人生を豊かに過ごすためだ。
死を明確にして、考えて生きることはより良く生きるために重要である。

■「いのち」について、「子どもにいのちの大切さをどのように教えたらよいか」を考えていくのではなく、「いのち」について、子ども自身にみずから考えさせ、自分で学び、考えを深めていく、自己教育力を養うための、指導法の開発が必要だと言うことを認識した。

■「生命」というテーマを教育でどのように取り上げていくべきかその難しさをあらためて考えさせられた。
この教育ネットの果たすべき重要な役割の一つも、その方向性の検討提案にあると思う。

■「生老病死」は生物に共通の事であり、これを学んでいくことが大事だというお話が印象に残った。生命倫理には答えがないということ、考えることが大事だということ。ではその際に重要となることは何なのか?それも考えていかなければならないことであると思った。
 
■生老病死が、立場の違いを越えた、生物共通のものという指摘がとても重要に思えた。ならば、生命倫理は様々な考えを学ぶことであると同時に、自分の考えを確立していくということでもあると思うが、後者については、いくつか方法が言われているものの、なかなか実行できないのが現状のように思う。しかし、それでは、生徒の前にカオスを提示するにとどまり、かえって何かにすがろうということになってしまうような気もする。教師(私)自身の頭の中がカオスのような現状で生命倫理をやっていいのかなぁと少し思った。
 
■今回は、どちらかというと、この流れで1年やってきて、その総括みたいな段階にきた感じもして、次のステップというべき問いかけで、まとめたかった訳だが、実際には、あまりよく分かっていない部分がたくさんでてきて、自分自身今後のテーマが少し出てきたように思われて、結果的にはこの回に出てよかったと思う。
学習指導要領の変遷と新しい流れについて (板谷裕子先生)  
 筑波大学教育研究科の板谷先生から、学習指導要領の変遷と新しい流れについて論評をいただきました。今までの学習指導要領の変遷や、近年の流れで導入が試みられている問題解決学習、体験学習について述べられています。

学習指導要領の変遷と新しい流れ

               筑波大学教育研究科
               板谷裕子

学習指導要領の変遷
 文部省の「21世紀の大学像と今後の改革方策について」審議会は、大学等における履修・修了のシステムは、従来の平等主義から学生の能力・適性に応じた内容に改める必要性について言及している。これは従来から検討されてきたことだが、本格的な導入に際し
ては、学生自身の学習意欲や成果を評価できるシステムが必要となる。そして学生が意欲的に学習に取り組みむためには、我々教員自身が、多様な学習ニーズに対応できる柔軟性と、授業技術における創意工夫を取り入れることが必要である。
 だが、これは近年に限った傾向ではない。かつて終戦後に新しい方向を「学習指導要領」とともに模索し続けてきた時代があった。
 「学習指導要領」は、昭和22年に初めて登場した。明治22年の「大日本帝国憲法」の発布による国家統治の大綱が示され、翌23年には、その精神を教育に反映した「教育勅語」がつくられた。以降、第2次世界大戦後の昭和20年まで、この教育勅語を奉じ、尊王愛国を理念とした教育体制が続いた。そして敗戦と同時に明治以来の教育勅語を中心とした教育指針から方向転換を迫られた。それまでの国定教科書に変わる新しい教育内容について「手引き」として示されたのが学習指導要領である。 
 昭和26年の学習指導要領では、経験主義の理論が提示された。「生活単元学習」や、この時すでに「問題解決学習」の理論が示され、ディスカッションの重視、「民主的人格の育成」を目標とした。昭和33年の学習指導要領では、「道徳」の導入、授業方針が生活単元学習から客観的知識や技術の修得を重視した系統的学習へと転換した。学習指導要領の法的拘束力の強化、教育委員が公選制から任命制になり、勤務評定の実施へと変化した。更に昭和43年の学習指導要領では高度経済成長時代の要求に即した改訂となった。特に理数系では高度な内容を取り入れる傾向が顕著となり、数学では義務教育課程で集合・関数・確率・統計が導入された。
 戦後日本の政治の流れが大きく変った時期、すなわち安保体制を背景として日本が高度経済成長に向かう時期は、教育の流れが一変した時期でもあった。
 だが、昭和52年の学習指導要領では、「ゆとりと充実」が示された。それまでの大量生産・消費を善とする時代の歪みが教育現場に溢れだした。その結果、「登校拒否」「非行」「校内暴力」などが表面化していった。この問題に対しては特効薬的な解決策は見あたらず、現在に至っている。
 その後、平成元年学習指導要領では、学校5日制と生涯学習体制を視野に入れたものとなり、中学校・高等学校では選択授業履修幅の拡大が行われ、現在各校で試みられている総合的学習導入が検討され、国歌・国旗の取り扱いが明文化された。だが、「登校拒否」「非行」「校内暴力」の問題への取り組みについては、明確な視点がない。

問題解決学習・体験型学習とは何か
 そうした中で、教育現場での取り組みの一つとして、昭和26年の学習指導要領で示された問題解決学習、ディスカッション重視の授業が近年、初等・中等教育や大学教育、社会福祉教育、医学教育で導入されている。総合的学習でも今後は幅広く導入されることが考えられる。参加体験型学習のための授業展開や、授業技術については、最近多くの研究報告がある。
 体験型学習は大別すると、直接体験型学習、疑似体験型学習、代理体験型学習などがある。直接体験型学習とは、野外活動や教室を離れた活動への参加などで、きわめて現実的な学習技法である。疑似体験型学習とは、実験、模型の作成などで、「実物」もしくは「実物」に近いものを取り入れた学習技法である。代理体験型学習とは、コンピュータソフトを使用したり、ビデオなどの視聴を取り入れたもので、間接的・部分的な学習技法である。学習技法には、他にもいくつかの種類があり、それぞれ長所・短所を有している。導入のポイントや授業技法、詳細については別の機会に譲りたい。
 こうした体験型学習は、授業目的や学生の有する特性に応じて使い分けて導入することが大切である。

問題解決学習の実施と問題点
 終戦後日本の政治や教育の流れが大きく変った時期を経て、教育は新しい方向を模索している。戦後50年余り経った現在は、未曾有に不確定な時代である。
 教育とは、あるべき人間の姿を探求することでもある。この原点に還って、学生が授業の中から幅広い人間観を培うことにつながる授業のあり方についての再点検が必要と考える。
 また、問題解決学習、ディスカッション重視の授業の導入に際して、たとえば授業についての感想文を自由記述形式で学生の署名付きで提出させた場合には、学生自身に対する教員の成績評価を過剰意識して、学生自身の本心とは違う内容を記述して提出することも
多く見られる。この自由記述を評価する場合、教員の陥りやすい盲点は、記述内容に授業内容や教員に対する肯定的内容が書かれている場合に特に客観性を失いやすくなる点である。
 こうした形式の授業を導入する場合、教員自身の陥りやすい盲点から離れて、より客観的な授業評価をするためには、学生自身の学習意欲や成果を評価できるシステムを実施することである。
 また、複数の教員(教育学的アプローチができる専門のスーパーバイザー教員を1名含めた3名以上が望ましい)で授業を展開し、スーパーバイザーの教員の助言に基づいた教員相互による点検・評価も必要である。そうした積み重ねが、授業内容の質的深化に必ず
つながる。
 学習結果に対する客観性を欠いた過大評価は、学生の学習意欲の喪失や、授業全体の流れを停滞させることにつながってゆくことにもなり、厳に戒めなければならない。このことは、筆者も体験型学習を授業に導入する時には必ず念頭に置くように心掛けている。こ
れまでの授業を振り返った自戒として。
調査に関するお願い - (メイサー、ダリル)

 先月の9、10日に開催された筑波大学での生命倫理教育ネットワーク夏合宿には、10名の先生方が参加しました。この合宿における討論については、ニュースレターで学生が細かく報告します。今回の合宿では、澤田先生、捨田利先生、庄司先生の興味深い発表を聞くことができ、加えて参加した先生方にとっては、お互いの理解を深めるよい機会になったのではないかと思います。
 今回の合宿では、いつものようなグループディスカッションは設けず、全体での話し合いのなかで、幅広い議論ができたと思います。それぞれの先生方が自分の研究について結果を報告し、生命倫理教育について話して下さいました。発表の後に行われた話し合いでは、11月1日に開催される第4回つくば国際生命倫理円卓会議(Fourth International Tsukuba Bioethics Roundtable session on bioethics education)において、大谷先生と小泉先生がこの生命倫理教育ネットワークの概要を発表することが決まりました。このほかにも円卓会議では生命倫理教育ネットワークに関するポスターセッションも予定しております。
 話し合いの最後には、生命倫理教育ネットワークにおいて行われる研究プロジェクトの可能性についての話し合いがおこなわれました。この結果、先生方がそれぞれの意図を持って生命倫理の教育を追求していることが分かりました。例えば、生命をより尊重させること、生徒の話し合いの場を設けること、生徒に自分達と異なった様々な考え方を伝えること、科学技術に関する知識を伝えることなどです。これは1993年に行われた国際生命倫理教育調査で高校の教師が生命倫理に対するイメージとして述べたことと類似しています。
 どのようなイメージを持つかによって、生命倫理教育の成果の評価や教材、手法は異なります。ですから、研究プロジェクトの実施にあたって、生命を尊重する傾向が増したか、意見決定を行う能力が増したか、科学に関する知識が習得されたか、など、いくつかの異なる評価項目を用い、また、それぞれの評価項目において、様々な教育方法を比較検討しようと考えました。生命倫理教育の実施前、実施中、実施後に調査し、これらの異なる評価項目における生徒の変化を評価します。
 この研究プロジェクトについては、このニュースレターに同封しました別紙に詳細を載せています。みなさんがこの研究に積極的に参加してしてくださることを望んでいます。この研究は生命倫理教育のインパクトを評価するだけでなく、私たちは各教室において時間が限られているという事も考慮し、調査の実施に極めて短時間ですむ調査を準備しています。今回の合宿で得た共通の認識の一つに先生方の積極的な参加の必要があります。この勉強会についての意見やコメント、そしてお互いに共有できる最新の情報や知識を、このネットワークのニュースレターに送ることなどです。電子メールのネットワークも開設しましたが、あまり利用されていないのが現状です。
 次の勉強会では、ネットワークへの高校生の参加についても話し合いたいと思います。これまで、ネットワークに参加した高校生は一人だけで、それ以外には、ネットワークの先生方と連絡を取った高校生は一人もいません。
 それでは、先生方の御意見をお待ちしています。


学校における生命倫理教育ネットワーク
第12回勉強会のお知らせ

<とき・ところ>
11月21日(土)15:00〜18:00
東京都立日本橋高校にて

<発表者>
山下亨先生

<当日のスケジュール>
15:00〜15:30
オリエンテーション、アイスブレーキング
15:30〜16:10
都立日本橋高校、山下亨先生(現代社会)の発表
16:20〜17:00
グループに分かれての討論
17:00〜18:00
全体でのわかちあい、まとめ
話し合いを有機的なものにするために、
できるだけ、最初から最後までご参加ください。
やむを得ず遅れていらっしゃる場合は、
事前にお知らせください。

生命倫理教育にご関心のある、ご自分と同じ教科、
あるいは違う教科の先生と、
ぜひご一緒にご参加ください。

ニュースレター第5号への掲載希望記事の締切:2月25日
書式自由、字数制限特になし(4000字を越える場合は、事前にご相談ください)
できれば、電子メール Email < asianbioethics@yahoo.co.nz >
あるいはフロッピーデイスク(マッキントッシュ/720 KB/1440 KB)でお送りください。
どんなに短くても、どんなテーマでも構いません。
皆さんのご発言を心待ちにしています!
生命倫理に関する教育研究グループ
岡武志 ダリル メイサー(責任者、筑波大学 助教授) 
〒305 茨城県つくば市 筑波大学 生物科学系
FAX: 0298-53-6614 / TEL: 0298-53-4662
Email < asianbioethics@yahoo.co.nz >.
学校における生命倫理教育ネットワーク
オーストラリア,日本,ニュージーランドの高校における生命倫理(日本語版)
Teaching materials in English/生命倫理教育の補助教材(日本語版)
To Eubios Ethics Institute Bioethics Resources