疾患関連遺伝子を同定するためのハプロタイプ地図作成プロジェクト

1.ハプロタイプ地図作製プロジェクトの背景とこれまでの経緯

 ヒトゲノムにおいては、これまでに約240万個のDNA配列の変異(一塩基多型:SNPs)が発見されていますが、さらに数百万のSNPsが存在するといわれています。これらの変異は、もしそれら変異の染色体上における構成―ハプロタイプの構造―が明らかになれば、健康と疾患に関連する遺伝子を発見する上で、非常に役に立つと考えられています。技術的には、染色体上にいくつかのSNPsの組合せ型を配置したハプロタイプ地図を作成することが可能な段階まできています。
 2001年7月18〜19日、NIHは、ワシントンDCで会議を開き、疾患関連遺伝子を明らかにするためにハプロタイプ地図をいかに役立てることができるか、このような地図を構築するための方法、民族におけるハプロタイプの構造のデータ、地図作成のためにどのような民族やサンプルが適当か、特定の民族において遺伝学的差異を研究することによる問題を含めた倫理的問題、またどのようにしてこのようなプロジェクトを組織するべきか、といったことについて話し合いを行いました。ある点に関しては解決が見られ、他の点に関しては、解決のための対策が取られました。
 会議には、人類遺伝学者、民族遺伝学者、人類学者、製薬会社やバイオテク企業の研究者、社会学者、倫理学者、様々なコミュニティーや疾患患者団体の代表者、多くのNIH機関や国際的資金提供機関の役人、ジャーナリストなど、165人が参加しました。

2.遺伝学的差異および疾患関連遺伝子の解明におけるその有効性
 最近の技術的な進歩により、広範囲にわたるヒトの遺伝学的差異の程度や組合せ型を研究することが可能になり、こうした変異を利用して疾患関連遺伝子を明らかにすることができるようになってきました。ここに要約した情報は、会議では発表されませんでしたが、ハプロタイプ地図を作成し利用することの重要性を理解するために役立つと考えられます。

― 疾患関連遺伝子解明の原理 ―
 多くの遺伝学研究の目的は、疾患関連遺伝子を解明することです。このような遺伝子を解明することにより、疾患のメカニズムを理解することが可能になり、その疾患を予防したり治療したりする方法を開発することができるようになります。比較的明確に遺伝的要因に起因する疾患である単一遺伝子病では、現在行われているような方法で関連遺伝子を明らかにすることが可能だと考えられます。しかし、ありふれた病気の多く、たとえば、心疾患、脳梗塞、糖尿病、癌、精神性疾患などは単一遺伝子病ではなく、複数の遺伝子と環境要因により影響されます。このような疾患における遺伝子の関与は明らかになってはいませんが、研究者の多くは、高頻度に認められる遺伝学的差異が重要であろうと考えています(頻度の高い疾患では、その原因となる遺伝学的差異は比較的頻度の高いものが多いという仮説)。

― 一塩基多型(SNP)の定義 ―
 SNPとは、DNA上で、それぞれの染色体が1塩基異なっている部位をいいます。たとえば、30%の染色体ではAである部位が、70%の染色体ではGである、といった具合です。これらふたつの型、この場合AとGのことを遺伝学的差異、あるいはそのSNPの対立遺伝子といいます。ヒトでは、このSNPに対して、AA、AG、あるいはGGの遺伝子型を持つことになります。

― SNPsの数 ―
 2人の人間の染色体を比較した場合、1000塩基に1回の頻度で変異が認められます。従って、ふたつの一倍体のゲノムを比較した場合、あるいはひとりの人の対になった染色体を比較した場合、約300万ヶ所の違いが認められます。より多くの人々の間で比較を行った場合には、これより多くの変異が認められることになります。ヒトのDNAにおいて、高頻度に変異が認められる場所(SNPs)がどのくらいあるのかは明らかではありませんが、およそ1000万〜3000万個のSNPsが存在すると考えられているので、約100〜300塩基にひとつのSNPsがあると考えられます。これらのSNPsのうち、およそ400万個が高頻度に認められるSNPsであり、それぞれのSNPの両対立遺伝子で約20%以上の頻度があると考えられています。

― 疾患関連遺伝子を発見するためにSNPsはどのように有効か ―
 対立遺伝子SNPのうちのあるものは、実際に疾患にかかる危険性をもたらすような機能的な違いをおこす場合があります。そのような対立遺伝子SNPを持っている人では、持っていない人と比べてその疾患にかかる危険性が高くなります。ほとんどのSNPsは、このような機能的な違いはおこしませんが、疾患関連遺伝子を発見するためのマーカーとして有用です。疾患に関連している遺伝子がある部位を特定するために、疾患にかかっている人たちとかかっていない人たちとの間で、多くの対立遺伝子SNPの出現頻度を比較します。もし特定の部位に、疾患にかかっている人たちの中に、かかっていない人たちより出現頻度の高い対立遺伝子SNPが見つかったら、それらSNPsとその対立遺伝子は、その疾患に関連していると考えられます。SNPと疾患のこのような関連性は、その部位に疾患に関与している可能性のある遺伝子が存在することを示しています。

― ハプロタイプの利用 ―
 ハプロタイプとは、染色体上のある部位における対立遺伝子SNPの組合せ型のことをいいます。理論的には、染色体上にはたくさんのハプロタイプが存在していると考えられるのですが、最近の研究では、出現頻度の高いハプロタイプは、ほんの少数見つかっているだけです。下にあげた6つのSNPsの解析が行われた部位の例で考えてみましょう。すべての人で同一であったDNAの塩基配列は示していません。3種類の高頻度に出現するハプロタイプが、集団の中で、それぞれ横に示した出現頻度で認められました。最初のSNPは、対立遺伝子にAまたはGの配列を持っています。次のSNPは、対立遺伝子にCまたはTの配列を持っています。このふたつのSNPsからあり得る4つのハプロタイプは、AC、AT、GC、GTです。しかし、実際に高頻度に認められるのは、ACとGTの組合せ型だけです。このようなSNPsは、互いに強い関連性をもっていると考えられます。
 遺伝子型を特定するための費用は、全ゲノムにわたって何百万というSNPsを調べ、どのSNPsが疾患に関連しているのかを特定しようとする研究では、現時点では非常に費用がかかります。ある範囲にハプロタイプが数個だけ存在しているということがわかれば、染色体にどのハプロタイプが存在するのかを決定し、その部位が疾患と関連しているのかどうかを判断するためには、数個のSNPsを調べるだけで良いということになります。
 下に挙げた例では、3種類の高頻度に出現するハプロタイプを識別するためには、ふたつのSNPsを調べるだけで十分だということがわかります。矢印で示したふたつのSNPsは、3種類の高頻度に出現するハプロタイプを識別するために考えられる何通りかのSNPsの組合せのうちの一例です。

   

― 多くのSNPの多様性は、すべての人種に存在している ―
 ほとんどのSNPsは、予想されるどのSNPの遺伝子型についても、すべての人種にそれを持っている人が存在します。しかし、それぞれの遺伝子型を持つ人の割合は、人種によって異なっています。下の図で示したように、ヒトでは、多様なSNPの約85%は、すべての人種に存在しており、残りの約15%は、人種間で異なっているものです。従って、同じ集団に属するふたりの人の対立遺伝子SNPの異なり具合は、世界の他の地域に属するふたりの人での異なり具合とほとんど同様だと考えられます。少数のSNPsでは、その対立遺伝子がある集団では高頻度に認められ、他の集団ではまれにしか認められないということがありますが、ほとんどの対立遺伝子SNPでは、それがある集団で高頻度に出現する場合、他の集団においても高頻度に認められます。頻度の高い疾患では、その原因となる遺伝学的差異は共通のものが多いという仮説に基づいて言えば、ある集団において、疾患に関連する高頻度に認められる遺伝学的差異は、関与の度合いは様々であっても、他の集団においても、その疾患に関連しているものと考えられます。


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